焦るエウリール
「魔王だ……マティアス様だ……」
その声に、周囲の木々や岩の影から、続々と悪魔の隊服を着た天使が姿を現す。
口々に「魔王?」「魔王が帰ってきた?」「マティアス様が天使になって戻った?」そんな囁きが聞こえてくる。
「後ろがつかえているんだ。天使になってしまった俺の秘書のソフィア、俺の側近のエウリールがいる。二人もここに出て来ていいか? シャックス家の次女・ジゼルの婿になったケイシー」
ケイシーの瞳に涙が浮かぶ。
「本当にマティアス様なんですね……。僕の名前を憶えていてくれるなんて……」
「二人の婚姻を認める書類に、サインしたのは俺だからな」
するとケイシーは大声で叫んだ。
「みんな。安心しろ。この方は、今は天使の姿だが、魔王、マティアス様で間違いない。武器を一旦収めろ。奥に魔王の秘書のソフィア様、あとエウリール殿がいるそうだ」
ざわめきとどよめきが起きる。
と同時に、皆手にしていた武器を収めてくれた。
体をずらし、ソフィアの名を呼ぶ。
戸惑いながらもソフィアは、ゆっくりと魔界へ足を踏み入れた。
「本当だ。ソフィア様だ」「ソフィア様のお姿はお変わりないのだな」
そんな囁きが聞こえてくる。
だが……。
エウリールが姿を現すと……。
「……! マティアス様。コイツは、コイツはエウリール殿ではありません! コイツは一度の鞭で千の悪魔を討ち取る者として恐れられている、大天使のウリエルです! 腰に鞭を帯びているではないですか‼」
ケイシーの言葉に、その場にいた天使全員が武器を構えなおす。
ミカエルは俺に「主も私も予期しなかった事態が起きている」と言っていたが、それは随分と謙遜した言い回しいだ。
予期しなかった、なんてレベルではないだろう。
これは異常だ。
天使が、大天使に武器を向ける?
今、エウリールは、堕天使エウールの姿ではなく、正しく大天使ウリエルの姿をしている。
それなのに天使から武器を向けられている。
こんな事態、誰が想像する?
思わず笑ってしまった。
「おい、マティアス、笑っている場合じゃない。おれは二十人近くいる天使から、武器を向けられているんだぞ。何とかしろ‼」
いつも余裕しゃくしゃくのエウリールが、焦った顔で俺を見ている。
そんな顔のエウリールは珍しかったので、もう少し見ていたかったが、ソフィアが慌てた表情で「マティアス様!」と腕を掴んだ。
だから笑うのを止め「やれやれ。仕方ないな」、そう言うと、目の前の二十人の天使を説得させるために、口を開いた。
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次回更新タイトルは「ケイシーの語る過去」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も勉強、お仕事、頑張りましょう‼




