整えたベッドを危うく乱すところだった
部屋に戻ると、昨晩ソフィアが言っていた通りの片づけを、手分けして行った。
ベッドメイキングをしていると、エミリアの店を手伝っていた時のことが思い出される。
あの頃はまだ家事に不慣れで、特にソフィアは料理が全然できなくて、手に沢山の傷を作っていた。その時のことを思い出すと笑みがこぼれ、そしてどうしても気持ちが抑えきれなくなってしまう。
「ソフィア」
その名を呼び、抱き寄せる。
「どうしたのですか、マティアス様? もう出発ですよね⁉」
「この後は、魔界までずっと飛行を続けることになる。だから……」
「……そうですね。こんなことはできませんもんね」
瞼を閉じたソフィアが顔をあげる。
「……!」
ワインのほろ酔いが続いている……わけはなかった。
でもエウリールが「マティアスをこれ以上お預け状態にしたら、狂いそうだからな」などと暴言を吐いて以降、少しずつではあるがソフィアが変わってきている。
これまでも俺が求めれば、それを拒むことはなかった。
でもあの日以降は、俺が求めると、それに自分からも応えてくれるようになっていた。
俺だけが一方的に求めているわけではない。
ソフィアも同じ気持ちなのだと実感できた。
気持ちが通じ合っていると分かるだけで、ソフィアへの気持ちがさらに強まる。
だから瞼を閉じ、顔をあげたソフィアに、情熱的なキスで応えていた。
本当は出発前に抱きしめ、軽いキスを交わせればという気持ちだった。
だがあんな風にされたら……。
そんな軽いキスで終わるわけはなく。
あやうく整えたばかりのベッドを、乱すところだった。
そこはお互いに踏みとどまり、踏みとどまれたことを喜び合い、そして笑顔で手をつないで部屋を出た。
◇
集合場所の一階に降りると、エウリールはカウンター越しにアンジェリカと話をしている。
エウリールは俺たちが降りてきたことに気づくと、アンジェリカにチークキスをして、何かを渡していた。
アンジェリカは手の平に載せられたものを見て驚き、そして腕を伸ばすと、エウリールの顔を引き寄せた。そして二人は……。
思わずソフィアの肩を抱き、階段の壁に飾られた絵を指差す。
「ソフィア、この絵、どう思う?」
突然のことにソフィアは驚き、でも真剣に絵を眺める。
「⁉ ……そうですね……。多分、羊……ですかね?」
ハッとしてその絵を見た。
適当に指差したその絵は抽象画で、何を描いているのか、理解に苦しむものだった。
白くもこもことしたものは、確かに羊には見えなくはないが……。
「おーい、マティアス、ソフィア、何しているんだ? 行くぞ」
エウリールに呼ばれ、ホッとしながら、ソフィアを促し階段を降りた。
◇
魔界への飛行を開始し、少し離れた場所を飛ぶエウリールの姿をチラッと眺める。
アンジェリカもそうだが、エウリールが関係を持っている女性は相当な数のはずだ。
レイラが純真無垢過ぎた反動。
レイラのいない悲しみを埋めるため。
理由はいろいろあるのだろうが……。
ソフィア以外を考えられない俺からすると、エウリールの行動は理解の範疇を超えている。
地上ではただの人間だが、ここ天界では大天使だと言うのに。
沢山の愛人と関係を持っていた母親に、俺は嫌悪感を覚え、毛嫌いしていた。それなのにエウリールに対しては、嫌悪感も覚えることはなかったし、毛嫌いすることもなかった。むしろ好ましく感じている。
だから。
エウリールには幸せになって欲しかった。
レイラの魂が再び天界に戻ることを、心から願った。
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次回更新タイトルは「たったの三年でも待ちきれなかった」です。
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主人公は乙女ゲーム『千年片想い』の世界にまさかの転生。
イケメン大天使に囲まれ、果たしてこの先、主人公の運命やいかに!?
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も勉強、お仕事、頑張りましょう‼




