なぜ戻らない?
部屋に戻ると、ソフィアのおでこ、頬、瞼、唇と順にキスをして、目覚めを促す。
ソフィアは唇のキスで目を覚まし、そのまま腕を伸ばし俺を求めた。
まるで昨晩のほろ酔いが続いているようだ。
嬉しさがこみ上げ、その体を抱きしめる。
ここまでは甘い感じだったのだが……。
あの脱げやすいキトンの留め具がそこではずれ、ソフィアは軽くパニックになりながら、掛布団の中に潜りこんだ。
その後はもう、普段のソフィアに戻り、共に身支度を整えると、一階へ向かった。
まばらだが宿泊客が昨晩と同じように、それぞれ席に座っていて、その中にエウリールの姿もあった。俺とソフィアはエウリールの元へ駆け寄る。
「朝は完全セルフサービスだ。そこにパン、サラダ、フルーツ、飲み物が用意されている」
二人でカウンダ―に行き、用意されていたお皿に朝食を盛り付けた。
「マティアス様はコーヒーですよね。とってきますね」
「ありがとうソフィア。ではパンは俺が焼こう」
あっという間に朝食の準備が終わり、ソフィアと俺も、エウリールが座る丸テーブルに着席する。
「朝食を終えたら、部屋の片づけだ。その後は魔界へ一気に向かう。魔界……現在の正式名称は、聖なる楽園、らしい。だが皆、魔界と呼び続けている。ミカエルさえそう言っていたからな。もう魔界でいいとおれは思う。
で、現在の魔界だが、完全に清められ、そこに魔力は一切ない。完全に神の力が満ちている。そこに天使が行ってもなんら問題はない。でも新たにそこに住もうとする天使はいない。だから今魔界にいる天使は、マティアスやソフィアの政策で、そこに住んでいた元天使軍の捕虜だった騎士達だ」
エウリールはコーヒーを飲みながらそう説明した。
「それはつまり……、捕虜のために用意した村に住んでいた天使、悪魔と婚姻関係を結んだ元天使が、そのまま魔界に、聖なる楽園に暮らし続けている、ということですか?」
「限りなく正解に近いよ、ソフィア。元天使の扱いについて、主も頭を悩ませたようだ。天界のために戦い、そして悪魔の手に堕ちた。天使の力はないが、翼は残っている。天使でもなければ人間でもなく、悪魔でもない。いわゆる忘れられた存在だ。
そこが魔界のままなら、主の力は及ばない。見て見ぬふりもできた。だが魔界は清められ、聖なる楽園になっちまった。
主もこの問題に向き合うことになった。その結果、力はないが、翼は残っている。ならばと大盤振る舞いで、忘れられた存在……元天使たちに、天使の力を再び与えた。つまり、皆、天使に戻った」
「ということは、魔界に今いるのは全員天使ということなのですね、エウリール?」
ソフィアの問いかけに、エウリールは頷き、こう続けた。
「天使に戻ったのだから、天界の元いた場所に戻ることもできた。だが全員、今も魔界に住み続けている」
「なぜ戻らないんだ?」
俺の問いにエウリールは「分からん」と答えた。
いくら神の力が満ちたと言っても、そこは魔界だった場所だ。
天界に戻った方が気持ちも休まるだろうに。
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次回更新タイトルは「ミカエルの意図」です。
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