穢れを知らない純粋無垢な心
「……なんで、とか、どうして、と考えても、起きた出来事は戻せなかった。おれにできることは、レイラの魂がこの天界にもう一度戻るのを待つことだけだ。それで待ち続けているうちに、だんだん天界のいろいろなことが気になってきてな。気づけばすっかり異端児のウリエル様だ。
しかもあれだ。レイラが無垢過ぎたことへの反動で、おれは奔放になり過ぎてしまった。なんだろうな。おれはどこかでレイラに示したかったんだろう。これだけ奔放に生きたおれが大天使なんだから、未遂で済んだことにそこまで悩むな、と」
辛気臭い顔をするな、と前置きされていた。
ここで真面目な返しをされることを、エウリールは望んでいない。
だから軽口を叩いた。
「だからってエウリール、やり過ぎだろう? 大天使のくせに、一体何人の女性と関係を持ったんだ? それにお前、どういうことなんだ? 天界でもそんなことを……」
「おいおい、マティアス、天界で奔放なことは無理だ。もしそんなことしていたら、おれは今ここにいないだろうが。アンジェリカとはギリギリまでしか楽しんでないさ」
「な……お前、ギリギリって……」
だが俺だってソフィアとはギリギリを楽しんでいる。
でもキトンを脱いだ状態で……そんなの無理だろう?
どうしてエウリールはそんなことができている?
……気になる。なんなら教えて欲しい。
だがそんなこと、口が裂けても頼めない。
「……マティアス、お前、ギリギリまで楽しむ方法を知りたいか? おれは教えても構わないぜ。ただ、今は朝だからな。これは酒でも飲みながら話すことだ」
本当は知りたいが……。
「必要ない。余計なお世話だ。それより、あのフックはレイラがつけたのか?」
、
エウリールはその時のことを思い出したのか、優しい笑みをこぼした。
「そうだよ。神殿で婚儀を挙げた後、おれは自分の住まいでレイラと暮らすつもりだったが、レイラはここを気に入っていた。だから婚儀の後も、ここに住み続けたいと言った。それならちゃんと二人の家を建てようとなって、家の建設は進めていた。でもまあおれが婚儀を急いだから家が間に合わず、しばらくは宿の部屋が仮住まいになりそうだった。だからレイラがあのフックをつけたんだよ。わざわざ自分で手作りして」
「……つまりソフィアと俺は、お前の愛の巣になるはずの部屋に泊ったのか……」
エウリールが吹き出して笑う。
「ああ、そうだな」
「まったくふざけた真似を。……レイラの魂がいつ戻るのか、分からないのか?」
「それは分からんな。それこそ主の御心のままに、だからな」
レイラはいつ戻るか分からない。
エウリールはただ待つしかできない。
その苦しみは……相当なものだ。
それに比べれば、俺の禁欲生活千年なんて……。
婚儀を何度か邪魔されたぐらいで怒るのは……いや、頭に来ることに違いはない。
でもまあ、エウリールに比べたら小さなことだ。
少なくとも俺のそばにソフィアはずっといたわけで……。
ソフィア……。
……ソフィアを抱かないのかと、エウリールは何度もはっぱをかけた。だがその理由が、分かった気がする。
無垢過ぎたレイラとソフィアは重なる部分がある。
穢れを知らない純粋無垢な心。
何か起こる前に早く抱いて、自分のものにしておけ――そんな思いも、あったのかもしれない。
エウリールに言われずとも、ソフィアとは一日も早く婚儀を挙げたいと思うし、抱きたいと感じている。
でもその前に。
大天使ミカエルの命令。
魔界で何が起きているかを確認する。
もちろん、それはやってやろう。
その上で何かプラスアルファをして……。
婚儀を中断させた報いは、ミカエルにとらせないとな。
「そろそろ動き始めるか、エウリール?」
「そうだな。朝食にでも行こう」
エウリールと俺は、それぞれ部屋に戻った。
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次回更新タイトルは「なぜ戻らない?」です。
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