コスプレで別人に
今日は撮影のため、ソフィアと二人、スタジオに来ていた。
今回撮影するのは、ハロウィンのために発売されるコスプレ衣装だった。
日本のハロウィンは仮装よりもコスプレが主流らしい。
ヨーロッパでのハロウィンはゴーストやドラキュラ、魔女といった姿に仮装していた。
だが日本ではアニメのキャラクターやハリウッド映画のヒーローなど、個性豊かなコスプレでハロウィンを楽しんでいた。
そしてソフィアと俺が表紙に採用される小説の令嬢と魔王の衣装も、このハロウィンのコスプレ需要を見込み、販売されることになった。
小説と写真集、そして衣装。
これらが一斉に九月半ばに販売されることになっていた。
今日は令嬢と魔王の衣装に加え、この衣装の生産・販売を手掛ける会社がハロウィンにあわせて販売する別のコスプレ衣装の撮影も行うことになっていた。
まずは令嬢と魔王の衣装から撮影した。
次に着用したのは『赤ずきん』のコスプレで、ソフィアは赤ずきんの少女、俺は狼――狼男の衣装に着替えた。
着替えると言っても俺は、血のようなものがついたダンガリーシャツとベージュのチノパンに狼の尻尾、狼の手を表現した毛のついた手袋、狼の耳の形の髪飾り、狼の毛を思わせるマフラーを身に着けた感じだ。
一方のソフィアは白のシャツに細身の黒いベスト、ボリュームのある赤いミニスカートに茶色のロングブーツ、手にはワインやフランスパン、林檎の入ったバスケットを持っていた。
配置につくと、赤いフード付きのローブをスタッフがソフィアに羽織らせた。
髪を三つ編みにしたソフィアが、赤いフードを被ると、まさに赤ずきん、という感じだった。
「いいですね、ソフィアさん。とても可愛らしいです」
早速ソフィア単体での撮影が始まり、続いて俺の撮影となり、最後はソフィアと俺のツーショットでの撮影となった。
「後ろから襲いかかるような感じで手をソフィアさんの胸のあたりに来るようにお願いできますか?」
スタッフの指示に従いポーズを撮った。
その後も何パターンかポーズをとり、赤ずきんの撮影は終わった。
次はヴァンパイアのコスプレ衣装だった。
俺は白シャツに黒いベストと黒いズボン、黒いマントで裏地は真紅というお決まりな衣装だった。
対してソフィアの女性版ヴァンパイアは……。
光沢のある黒のチューブトップミニ丈ワンピースに黒の編みタイツ、濃いワインレッドのマントという普段のソフィアのイメージとかけ離れた衣装だった。
……これじゃ女悪魔のコスプレみたいだ。
ソフィアはボディラインがハッキリでるこのコスチュームにはかなり戸惑っているようだった。
眉毛はきりっとしていて、アイメイクは濃く、口紅は鮮血のような赤。
かなり強気なメイクなのに当のソフィアは困り顔。
俺はソフィアのそばに行き
「ソフィア、これは仕事だ。もっと堂々としろ。普段のソフィアとは全然イメージが違うが、これはこれで新鮮だ。エミリア達のことを思い出してご覧。挑発的な目線、強気な笑み、それをイメージして演技するんだ。なりきるんだ。男を誘惑して血を吸う女ヴァンパイアに。ソフィアならできる」
「これは仕事……。エミリア達の仕草……。誘惑……女ヴァンパイア……」
ソフィアはそう呟くと俺を見て頷いた。
「はい。やってみます」
ソフィアの撮影が始まった。
「では何枚か試し撮りするのでポーズお願いします」
その瞬間、ソフィアの表情が変わった。
誘うような流し目。少しだけ開いた口元。自身の細い首に指をはわせるその動作。
会場のスタッフがざわついた。
それはそうだろう。
これまでのソフィアからは想像できない表情と仕草なのだから。
ソフィアの撮影は順調に進み、カメラマンもクライアントも「この商品欠品しちゃうんじゃない⁉」と大喜びだった。
続いて俺の番だった。
ソフィアにあれだけのことを言ってやらせたのだから、俺も存分に演じないとな。
悪魔には人間を誘惑するための目の動き、口の動き、体の動き、そのすべてが本能的に刷り込まれていた。それは魔力の有無に関わらず、通用するものだった。
俺はそれを人間に対して使うことはなかったので、これが初めての披露の場となった。
この場にいる全員を落とすつもりでカメラの前に立った。
カメラマンはほぼ無言でシャッターを押し続けた。
女性スタッフの顔は一様に上気して目がトロンとしていた。
男性のスタッフさえ、ぼーっとした表情で俺に釘付けになっていた。
「……あの、もういいですか?」
俺の声に全員が我にかえり、撮影が終わった。
「あ、えっと、それではソフィアさんとのツーショット、お願いします」
女性スタッフがあたふたしながら指示を出した。
カメラマンとクライアントは撮影した写真を見て「やばい、これ、絶対バズりますよ」とため息をもらしていた。
どうやら成功だな。
俺はソフィアを見た。
「マティアス様、素晴らしい演技でした! 流石ですね!」
えっ……。
ソフィアには通じていない⁉
……当然といえば当然か。
下心あっての誘惑はソフィアには通用しない。
ならば全身全力で下心なしで迫ってみたら?
「ではお二人のツーショット、お互いに見つめ合い、血を求めるような感じでお願いします」
スタッフの言葉に俺とソフィアは向き合った。
ソフィアは俺の首に腕を伸ばし、今にも噛みつきそうに口を開いた。
俺はソフィアの腰を抱き寄せ、マントをめくり、胸元に顔を寄せた。
「いいね!」
カメラマンが何度もシャッターを切り、ついにはカメラを持ち移動して、様々な角度から、撮影を行った。
オッケーが出て、俺とソフィアはようやくポーズを解いた。
「もー、マティアス様、マント、めくるの反則ですよ~」
ソフィアはいつものソフィアに戻り、顔を真っ赤にした。
「ごめん、ごめん。でもほらいい写真撮れたはずだから」
俺の言葉に、納得できないが、いい写真が撮れたなら仕方ないかと、ソフィアは複雑な表情を浮かべていた。
純粋にソフィアに迫る……それはここではないどこかでいつか俺は実行してしまうのだろうか?
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次回更新タイトルは「温泉旅館」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も学校、お仕事、頑張りましょう‼
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