おれの前でいちゃつくのは許さんぞ
「まあ、お前がソフィア一筋なのは分かっていたからな。それはいいさ。でもな、マティアス、お前と同じぐらい、ソフィアもモテていたんだぞ。美しく有能な魔王の秘書。魔王から絶大な信頼を得ている高値の花。あの頃の宮廷では、ソフィアを題材に、物語や詩を読む作家や詩人が多かった」
驚きを隠せず、ソフィアに尋ねていた。
「ソフィア、そうなのか? そんなに……誰かに言い寄られていたのか⁉」
飛ぶ速度を落とし、ソフィアのそばに近づく。
「マティアス様、そんなに私はモテませんよ」
「いやー、ソフィア、弓の訓練をしていた時、かなり言い寄られていたよな、アイツに」
エウリールが煽るようなことを言うので、完全にその場に静止する。
「ソフィア、誰なんだ、そいつは⁉ 俺はソフィアが弓を使えることを知らなかった。でも『天界軍騎士総本部』で見せた弓の腕前は……相当なものだった。あれだけの腕になるには、相応の訓練が必要だったはずだ。ということは、その訓練にかけた時間、その間に誰かから言い寄られていたのか⁉」
思わずソフィアを抱き寄せ尋ねていた。
ソフィアは困惑顔で、エウリールを見る。
「もう、エウリール、なぜマティアス様を不安にさせるようなことを言うのですか!」
「いや、おれは事実を言ったまでで……」
エウリールのことを睨んだ後(睨んでいてもすごみがなく、とても可愛らしかった)、ソフィアが俺を見た。
「弓の訓練をしていた時、『一緒に練習をしたい』とオリアクス様に言われ、共に研鑽していただけですよ」
「……なんだ、オリアクスか」
盛大なため息が漏れた。
オリアクスは俺の腹違いの弟だ。
オリアクスは、先代魔王……親父が地方貴族の娘に産ませた子供と言われ、一時共に城で暮らしていた。俺と瓜二つと言われた二歳年下の弟は、とても従順で、俺にも懐いていた。
当然ソフィアとも顔見知りだったが、ソフィアのことは姉のように慕っていた。
さらにオリアクスには年下の婚約者がいて、二人は仲が良かった。
天界と魔界の戦が緊張感を極めた時、いち早くオリアクスとその婚約者を地上へ逃していた。
王家の血筋と分かれば、きっと辛い目にあうと分かっていた。
オリアクスは見た目は俺とそっくりだが、とても大人しく穏やかな性格で、さらに魔力が弱かった。戦場に出ることもなかったオリアクスが、魔界の敗戦が決まった時、天使に断罪されるのは、見過ごせないと思った。
だから地上へ逃した。地上のどこに逃れたのか、それを俺は知らなかった。あえて、知らないようにした。もし大天使から尋問を受けた時、オリアクスの居場所を俺が話さないようにするためだった。
……いろいろなことがあり過ぎて、すっかりオリアクスのことを忘れていた。
地上のどこかで元気にやっているだろうか?
悪魔狩りにあっていないことを願うばかりだ。
「ソフィア、疑ってすまなかった。俺がソフィアを想っているように、ソフィアも俺を想ってくれていると分かっていたのに……」
「気にしないでください、マティアス様。今のはエウリールが悪いと思います」
「でも結局、二人の愛は深まっただろう? だがな、おれの前でいちゃつくのは許さんぞ。おれだって地上で禁欲生活を強いられ、いろいろ溜まっているんだ。それにな、いつまで大天使をやらなきゃいけないか、分からない状態なんだからな」
エウリールはソフィアと俺を引きはがす。
「宿はもう30分も飛べばつく。行くぞ、マティアス、ソフィア」
俺たちは飛行を再開した。
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次回更新タイトルは「オリーブの酒場」です。
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