絶対だ。例外はない。従うしかない
「落ち着け、マティアス。気持ちは分かるが、ここは天界で、お前は天使だ。そして奴は大天使。ミカエルの命令は、他の大天使の比じゃない。絶対だ。例外はない。従うしかない」
エウリールのその顔は、諦めろと言っている。
「従わなかったらどうなるんだ? 翼と力を奪って地上へ堕とすのか?」
皮肉じみた言葉に、エウリールはため息をつく。
「そんなことにはならないよ、マティアス。従わない、なんて選択肢はないからだよ」
「何? 選択肢がないとはどういうことだ?」
「ただの天使だったらもう、操り人形にされてもおかしくない、とおれは言っただろう」
まさか……。
こちらをじっと見つめるエウリールは、まるで心の内を読んだかのように答えた。
「そのまさか、だよ。勝手に体が動いただろう? 奴の前で、片膝を地面について、跪いた。ミカエルが魔界へ行け、と命じたのだから、もう魔界へ行くしかない。体が勝手に魔界へ向かう。おれが天使の輪で主に縛られていた時、鳩が勝手に俺をラファエルのところまで導いたと話しただろう? あれと同じようなものだ」
信じられない気持ちで、エウリールに尋ねる。
「今、家に向かおうと翼を広げて空を飛んでも、俺は家に帰れないのか?」
エウリールは頷いた。
「マティアス、お前が家に向かっているつもりでも、それは魔界へ向かい飛んでいることになる」
大天使ミカエル――。
俺が魔王時代に、面と向かって渡り合うことはなかった。
まさかこんなに強力な力を有していたとは……。
「お前が魔王だったならな。まだ互角に渡り合えたかもしれない。だが今は違う。とりあえず魔界へ向かって、とっとミカエルの頼まれごとを済ませた方が早い。お前たちに婚儀を挙げさせると啖呵を切った手前もある。おれも魔界へ付き合う」
全く持って納得がいかない。
だが……。
「マティアス様、実は私、魔界がどうなっているか気になっていました。だって、私達は地上へ堕とされましたが、魔界には捕虜となった天使が自由に暮らせる村をいくつも作りましたよね? 悪魔と婚姻関係を結んだ天使も沢山いました。彼ら彼女らがどうなったか、気になっていたんです。ミカエルのために行くのではない。今の魔界がどうなっているか、その確認のために魔界へ向かう。そう思い、魔界へ向かいませんか?」
「ソフィア……」
せっかく婚儀を挙げようとしたのに。
それを台無しにされたのに。
ミカエルからの逃れられない命令に従わされている俺を、ソフィアは励ましてくれている……。
気づけばソフィアを抱き寄せていた。
ここでキスをすれば、TPOを考えずにいちゃつくラファエルとアクラシエルと同じになりそうだったので、ぐっと堪える。
「ありがとう、ソフィア。……これは順番が逆になるが、新婚旅行だと思って魔界へ行こう」
ソフィアはクスクスと笑い「そうですね」と頷く。
「じゃあ、行こうぜ、マティアス」
エウリールの言葉を合図に、翼を広げた。
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次回更新タイトルは「俺の心はずっとソフィアに」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も勉強、お仕事、頑張りましょう‼




