プロローグ
ミカエルがこの場を去った瞬間、我に返った。
俺はすぐに立ち上がる。
エウリールとソフィアも、立ち上がった。
「……ソフィアも跪いていたのか……?」
驚いてソフィアを見る。
「はい。マティアス様が振り返るのとほぼ同時に後ろを見て、ミカエルの姿を認識した瞬間、片膝を地面につけ、跪いていました。自分でそうしようとしたわけではなく、体が自然にそうなっていました……」
ソフィアは何が起きたのか分からない、という顔をしている。
「エウリール、これはどういうことなんだ?」
「あー、マティアス、すまなかった。まさかミカエルが来るとは思わなかった」
エウリールは自身の髪を、乱雑にかきあげる。
「大天使には漠然とした序列があるんだ。神の祝福により与えられた力の強さが、それぞれ違っていてな。一番強力で、自身以外の大天使さえ従えることができるのが、ミカエルだ。大天使の中でダントツで強い力を有している。主と遜色ないと思う強さだ。
その次がガブリエル、そしてラファエル。おれは大天使の中でも異端児扱いで、力の優劣から除外されているんだが……。それでもミカエルの前に行けば、体が勝手に反応する。ただの天使だったらもう、操り人形にされてもおかしくない。
マティアスは『かしこまりました、ミカエル様。これより、魔界へ向かいます』って答えていたけど、あれはお前の意志か?」
「ふざけるな。そんなわけないだろう! 俺はこれからソフィアと婚儀を挙げるために、この神殿に入ろうとしていたんだ」
憤慨する俺をなだめるように、エウリールが両手で制する。
「だよな。でも意志とは無関係に、ミカエルの指示に従う言葉を口にしていた。そいうことなんだよ、ミカエルの力は。大天使である俺にさえ、どうにもできない。……なあ、天界との戦をしていた時、ろくに戦闘もせず、無条件降伏した悪魔軍がいた、という話を聞いたことはなかったか?」
その言葉に記憶を辿ると……。
悪魔軍が優勢になり、ここを突破すれば天使軍は総崩れになるという局面で、突然悪魔軍が無条件降伏をすることが、何度となくあった。
「……ある」
エウリールは「だろう」と頷くと、こう説明した。
「ミカエルだよ。アイツは普段は、主のすぐそばに控えている。主を守ることこそが、アイツの大きな使命だからな。だから魔界との戦いにおいても、あまり戦場に出ることはなかった。
だが、ここぞという大ピンチの時だけ、戦場に出た。で、今のような感じだよ。魔王騎士団クラスになれば、そう簡単にはいかないかもしれないが、兵士レベルの悪魔なんてイチコロだよ。戦うまでもない。ミカエルの声を聞いたただけで、戦闘意欲がなくなる。
マティアスだって婚儀を邪魔され、ブチ切れそうだったはずだ。でも、怒りを爆発させることもなかっただろう? ミカエルのあの声、あれを聞くだけで、負の感情は霧散するんだよ」
まさにその通りだった。
ミカエルが突然現れたこと、婚儀を邪魔したこと、魔界へ行けと命じたこと。
そのすべてに腹が立ったはずなのに、怒りの感情を維持できなかった。
「一方的に命じられ、答えさせられ、俺はそれに従うしかないのか?」
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!
次回更新タイトルは「絶対だ。例外はない。従うしかない」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も勉強、お仕事、頑張りましょう‼




