さあ、二人とも入れよ
俺はさりげなく周囲に目を配った。
もうガブリエルはいないと分かっていたが、なんとなく、そうせずにはいられない。
その様子に気づいたエウリールが、ぷっと吹き出して笑っている。
「なあ、マティアス、何も心配するな。ガブリエルはいない。そしておれがここにいる。おれはとっくにここの権限を自分の手中に戻してある。大丈夫だ」
「……そうだな」
「まったく。心配のし過ぎだ。仕方ない。階段の上まで見送るよ」
そこまでしなくてもいい、と言おうとしたが、念のためでそのまま付き添ってもらうことにする。
「よし。着いた。何も問題なかっただろう? さあ、二人とも入れよ」
エウリールが両開きの扉を押した。
完全に開ききると、中が見渡せる。
長い廊下の先には天蓋付きのベッドが見えた。
その奥には祭壇があるのだろう。
突き当りの壁には巨大な十字架と主の姿。
薔薇の香りがここまで漂っている。
「マティアスは右の通路を進む。ソフィアは左の通路を進む。で、沐浴だ」
エウリールの言葉に俺はソフィアを見た。
ソフィアは頬をバラ色に染めたまま頷く。
それを合図に俺は右側の通路を、ソフィアは左側の通路を進もうとした。
「すまないが、待ってもらえるか」
聞いたことのない穏やかで優しい声が聞こえる。
この期に及んでまた邪魔をする奴が⁉
そう思ったが……。
「マティアス、君に話がある」
その声は不思議と苛立つ俺の心を沈めてしまう。
気づくと立ち止まり、後ろを振り返っていた。
驚いた。
エウリールが片膝を地面につき、跪いている。
そしてその傍に佇むのは――。
一瞬だった。
その姿を見たのは。
気づくとエウリールのように片膝を地面につき、跪いていた。
輝くようなホワイトブロンドの髪。瞳は紫と紺碧が混ざり合い、まるで宇宙のような色をしている。肌は透き通るような白さで、目鼻立ちはすっきりとしており、体は見事な黄金比。
「今すぐ、マティアス、魔界へ行ってもらいたい」
……⁉
何故今さら魔界に⁉
そう思ったのは一瞬で、気持ちはすぐ落ち着いていた。
「主も私も予期しなかった事態が起きている。それがなんであるか、確認して欲しい」
な……。
魔界から地上へ堕としておいて、何を今さら……。
そう思う気持ちがあるのだが、この声を聞いていると、怒りの感情を維持できない。
それどころか俺は……。
「かしこまりました、ミカエル様。これより、魔界へ向かいます」
自分の声とは思えなかった。
勝手に口が反応している。
しかも、ミカエル、だ、と……?
戦場ではかなり離れた距離で、一度だけ対峙したことのある大天使ミカエル。
あまりにも遠すぎて、その姿は光としてしか認識できなかったが、これが、あのミカエル……!
「頼んだよ、マティアス」
「はい」
静かに返事を返している。
視界に見えていたミカエルの美しい脚が宙に消えていった。
(第二部完)
本編を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ついに四大天使の最後を飾るミカエル登場!
【Episode3】魔界大騒動 がスタート‼
これまで以上にマティアスの溺愛ぶりが発揮されます。
明日、1月8日(日)の21時から新エピソードが開始です。
引き続きお楽しみください‼
★★女性読者も楽しめる物語★★
『異世界召喚されたら供物だった件~俺、生き残れる?~』
https://ncode.syosetu.com/n0117hx/
現在、【Episode2】テルギア魔法国捜索編が更新中ですが
5話に渡る回想があるので、こちらを読めば
【Episode1】未読でもお楽しみいただけます!
試し読みのご検討、お願いします。
【Episode1】死亡フラグ遂行寸前編
婚約者に襲われた美少女ヴァンパイアのベリル。
大量出血したベリルは、失った血を補給するため、
拓海を召喚していた。
召喚者のベリルと供物の拓海。
童貞のまま死にたくないという拓海にベリルは
「吸血時に注入する魔力は全身に強い快感をもたらす。
例え童貞だったとしてもめくるめく快楽で、
あたかもそれを喪失したかのような気持ちで逝ける」
と言うのだが……。
【Episode2】テルギア魔法国捜索編
レッド家次期当主は、本当はベリルの兄・カーネリアン。
でも彼は魔女にさらわれ行方不明に。
現状次期当主であるベリルと拓海の関係は、
カーネリアンが次期当主に就任しない限り、
変えることはできない。
拓海は旅の仲間を集め、
魔女とカーネリアンがいると目される
テルギア魔法国へ向け旅立つが……。




