今日はエイプリルフールじゃないよな?
「残念なことに天界と魔界の争いは集結した。魔界の完全敗北だよ。そして俺がそのラスト魔王だ。翼と魔力を奪われ、地上へ堕とされ、ただの人間になった。そして紆余曲折あって、そこの大天使ラファエルの力が直撃して死んだ。だが人間の俺は善良だったからな。今はこうして天使をやっている。
俺がここにこうしている理由、それはただエミリアを助けたいからだ。エミリアは俺が地上に堕ちた時に世話になった悪魔だ。無下にはしたくない。何より、エミリアには仲間の悪魔がいる。そいつらが会いたがっているんだよ、エミリアに。
それにエミリアは基本的に悪魔相手の商売をしていて、人間には関わらない。たまたまハロウィンのあの日は、酒を飲み過ぎて粗相をした。だが引き渡してもらえれば、俺から強く注意しておく。二度はないと。次に調伏されても助けないと。
だからエミリアを、彼女の友人の元に帰してやってくれないか?」
小笠原久光は俺を見て、そしてラファエルを見る。
バチカンを知っているぐらいだ。
当然大天使のことも、ラファエルのことも知っているはずだ。驚いて当然だった。
「……大天使、だと? phantomの正体がラファエルだと? そしてお前は元魔王? 元魔王が天使?」
小笠原久光は絶句した後、背後にいる式神に問いかける。
「岡田、今日はエイプリルフールじゃないよな?」
「久光様、今日はエイプリルフールではありません。今は11月です」
小笠原久光は岡田の答えに「はっ」と言い、笑った。
「そうだよな。まったく。今日のことは、一生忘れることができなさそうだ」
「小笠原久光、もう一つ驚いてもらおう。ここにいるMisfitだが」
俺の言葉に小笠原久光の顔がひきつる。
「まさか、Misfitまで大天使だと……」
「そうだ。そのまさかだ。こいつはウリエルだ」
小笠原久光は両手を挙げた。
「分かった。もういい。大天使のラファエルとウリエル、元魔王のマティアス、天使のソフィア、アクラシエルが、ぼく一人のためにこんな大芝居を打った。たった一人の悪魔のために。しかも仲間の元に戻したいと。分かったよ。エミリアはお前たちの元へ帰そう。ずっと観察させてもらったがマティアス、お前は嘘をついていないからな」
さすがだ。
全員の名前と顔も会話の中から一致させ覚えているし、俺が嘘をつているかどうかも、あれだけ驚きながらも観察していたとは。
「ありがとう。そうしてもらえると助かるよ」
俺と小笠原久光は、お互いを見てニヤッと笑う。
「エミリア」
小笠原久光が名前を呼ぶと……。
赤毛の釣り目で、ぷっくりした唇。
真紅の体にフィットしたドレス。
誇張するように盛り上がった胸元に、くびれたウエスト。
式神になっても色気満点のエミリアが姿を現した。
「エミリアさん!」「エミリア」
呼びかけるソフィアと俺を見てエミリアは困惑する。
「よー、エミリア」
エウリールを見て、エミリアはようやく安心した顔になった。
だが縛りがあるのだろう。
口を開きかけたが、すぐに閉じた。
「エミリア、縛りを解除する。だがまだぼくの式神であることに変わりはない。逃げたりはするなよ」
エミリアは驚いて小笠原久光を見たが、すぐに頷く。
小笠原久光が何かを呟きながら、手を素早く動かした。
なんだ? 星を宙に描いた?
「エウリール、一体これはどういうこと⁉」
エミリアが困惑しながら、エウリールに尋ねる。
「まー、話すと長くなる。が、お前のことを助けに来たんだよ」
「助ける?」
「そう。ロルフやベラ、店の女の子に頼まれてな。みんなお前に会いたがっているんだよ」
その言葉に、エミリアの瞳が潤む。
「……みんな、元気にやっているの?」
「ああ。おれは修行の身だから店には行けないが、お前さんがいつでも戻って来られるように、ちゃんと店も営業を続けている」
「そう……。それはみんなに迷惑をかけちゃったわね」
エミリアの瞳から涙がこぼれた。
それを見た小笠原久光は静かに告げる。
「エミリア、お前を俺の式神から解放する」
「マティアス、悪魔を助けるとは、天使失格だ」
ガブリエルの声がしたと思った瞬間、ラファエルが俺を突き飛ばした。
「エミリア、伏せろ」
エウリールが叫ぶ。
「ラファエル様!」「マティアス様」
アクラシエルとソフィアが同時に叫んだ。
すべては一瞬の出来事だった。
「な、一体どういうことだ⁉」
小笠原久光が、初めて動揺する姿を見せた。
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次回更新タイトルは「このぼくが動けなかった」です。
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