ついに発見
定刻通り、チャリティーコンサートはスタートした。
野外会場は、その周囲をぐるりと取り囲むように、ショッピングモールの通路が6階まで続いている。そしてその通路に沿ってお店が展開されていた。さらにその通路には野外会場が見下ろせるように、ベンチが等間隔に設置されており、そこはすべて埋まり、立ち見客も沢山いた。
特設ステージにラファエルとエウリール、つまりphantomとMisfitが登場すると、大歓声が沸き起こる。
その結果、一曲目の楽曲から信じられないぐらいの盛り上がりを見せた。
phantomの曲はアニメ、映画、ドラマ、CMなど多くに使われていたので、知名度は抜群だ。その歌声にMisfitの声が加わると、さらに美しいハーモニーを生み出し、観客を魅了する。
と同時に募金箱の前には常に長蛇の列が続き、チャリティー活動としても大成功を収めた。
途中、トークなどを挟み、1時間が過ぎたところで、例のオークションが始まった。
架純にコスプレしたソフィアは、サイン入りの色紙を手にステージに上がる。
その瞬間、phantomとMisfitが登場したのと変わらないぐらいの歓声が起きた。
ソフィアは芸能活動をしていたとはいえ、こんなに観客が集まるステージに登壇するのは、初めてのことだった。だからこの大歓声には思わず驚いてしまったのだが、その表情がなんとも言えず愛らしかったようで、「かすみちゃーん」という声援まで起きている。
そんな大熱狂の中、オークションはスタートした。
最初は5千円からスタートしたが、金額はどんどん上がっていき、10万円まであっという間に到達した。その後は一万刻みで上昇し、気づくと30万円、50万円まで跳ね上がる。60万円になると、オークションに参加している人数が、目視で数えられるぐらいになった。
その時。
白のパーカーのフードを目深に被った少年が、ピンと手を伸ばした。スタッフがマイクを渡すと……。
「80万円」
その値段に会場からどよめきが起こる。
いきなり20万円アップしたことで、残る参加者は明らかに動揺していた。
俺は隣にいたアクラシエルを見る。
「あんな子供が80万円も払えるのか⁉」
アクラシエルはゆったりと首を傾げた。
「いまいちその貨幣の価値が分かりませんが、子供が払えなくても親が払うのではないでしょうか」
……なるほど。至極真っ当な答えだ。
だが。
あんな子供に落札されては……。
残りのオークション参加者の顔を見る。
この中に小笠原久光は残っているのだろうか。
聞いたところによると、小笠原久光は陰陽師としての力を政府機関にも貸しているようで、相当お金も持っているはずだという。
それならば、80万をちょっとでも超える金額を提示してみろ……。
心の中で祈る。
だが。
「80万を超える金額を提示する人はいないかな?」
ラファエルの声が会場に響いた。
挙手する者はいない。
「ではカウントダウンにはいる」
エウリールが告げる。
「五・四」
そこですうっと手が挙がった。
整った顔立ちの青年で、身なりもきちんとしている。
「85万円で」
85万……。
いきなり20万も上乗せしてきた少年に勝てるのか?
というか、あの青年が小笠原久光?
小笠原久光、という目線で青年を見てみると、確かに眼光は鋭く、キリッとした表情は、闇に打ち勝つ力を秘めているように思えた。
「90万円」
白パーカーの少年が合わせるかのように、5万円で刻んできた。
青年は静かに答える。
「95万円」
会場はもはや百万円の大台に乗るかと、ざわめきが起きていた。
「100万円」
白パーカーの少年が当然のように告げる。
どよめきが起きた。
あの色紙に100万……。
すごい事態に思える。
小笠原久光。負けるな、105万と言え!
俺は青年を見た。
だが……。
青年は無念そうに目を閉じる。
ここでエウリールが再びカウントダウンに入った。
もはや声を挙げる者はなく、あの白パーカーの少年が落札してしまった。
しかし、あの青年が小笠原久光の可能性が高い。
何か適当な理由をつけ、話しかけに行けばいい。
そう考えている間にも、白パーカーの少年はステージに招かれ、ラファエルとエウリールと会話をしている。
もはや少年はどうでも良かったが、今すぐ青年の元に向かうことはできない。
仕方なくステージを注視した。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
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次回更新タイトルは「絶句。まさか……」です。
今日は大晦日。1年が経つのは早いですね。
投稿を通じ、読者の皆様と知り合えたこと
とても喜ばしく感じます。
また来年も続きを楽しんでください。
良いお年を!




