田中さん
「ソフィア……なんだね? 元気にしていたか? 事故に巻き込まれたり、病気になったりしたわけじゃないんだな?」
電話に出たソフィアに田中さんがかけた言葉。
それはソフィアの様子を気遣うものだった。
「はい。元気にしています。……突然消息を立つ形になってしまい、申し訳ありませんでした」
ソフィアは謝罪の言葉を口にした。
「いや、元気だったらもうそれだけで……。過去にね、海外から日本に来ました、日本が大好きで永住したいと思っているっていう外国籍の女の子をスカウトしたことがあった。日本人にはない独特の雰囲気と綺麗な容姿な子でね。これはいけると思い、契約したんだ。
でも一年ぐらい経ったら突然音信不通になってしまって。それから二週間後、海岸に遺体がね、打ち上げられた……。事故や他殺ではなく自殺だと分かった。何か悩んでいたのに気づいてあげることできなかったのかと、ずっと忘れることができなくて。
ソフィアにはマティアスもいたし、そんなことをするわけがないと思っていたけど……。いや、本当に、元気ならそれで良かったよ」
田中さんはそう語った後、俺たちが消えた後の対応について、簡潔に説明してくれた。
ソフィアと俺はまさに人気の絶頂に向かいつつあったので、突然、姿を消したでは収まらない状態だった。だから苦肉の策で事故に巻き込まれ、一命を取り留めたが、顔だしは難しくなった。
だからVTuberとして活動していくという言い方をするしか、いろいろなことが収まらなかったのだという。
「勝手なことをしてすまなかった。ただ、匿名で情報をくれた者がいたんだ。それは不思議な情報だった。信じるか信じないかはあなたの判断にまかせる。でも信じるならすべての謎が解けるというんだ。
その情報によると、ソフィアとマティアスは人間ではない。実は二人とも地上へ一時的に降りてきていた天使だったっていうんだ。天界から呼ばれ、突然戻ることになってしまったが、ぼくに対して申し訳なく思っている、ってね……。ファンタジー過ぎて驚いたよ」
こんな話を田中さんにする者は、一人しかいない。
この話を田中さんにしたのは……エウリールだ。
「でも不思議とその話を聞いて、ああ、そうなのかと、どこかで納得する自分がいてね。そもそも君たち二人の美しさは……そのどこか人智を超えていた気がしていた。それに二人はとても真面目だったし、よっぽどのことがなければこんな風に姿を消すことはないと思ってね。それからは空を見上げる度に、空に天界があるか分からなかったけど、そこで二人は元気でやっているのかな、なんて思うようになって」
田中さんはそう言って笑った。
「田中さん、すみません、マティアスです」
スピーカーにしていたので、俺の声は田中さんにちゃんと届いた。
「……! マティアスもいるのか⁉」
田中さんは驚いている。
「一度電話を切ったら、ビデオ通話で話してもいいですか?」
「あ、ああ、それはもちろん」
「田中さんがその匿名の情報をどこかで納得して、信じているなら、ソフィアと俺の姿が見えるかもしれません。ハッキリ、とはいかないかもしれませんが」
「……! 分かった」
一度電話を切り、ビデオ通話に変えて田中さんを呼び出す。
そして通話がつながると……。
ソフィアと俺は、まだ地上の服に着替えてなかった。
つまり、神の家で用意されていたキトンを着ている。
だから……。
「これは……本当に、現実なのか? 君たちの姿が、なんというか眩しいほどの光に包まれて……」
そこで田中さんは、目頭を押さえる。
泣いているのだ、と分かった。
「すまない……。なんというか、心が洗われるというか……」
田中さんはハンカチで目を押さえた。
「急に涙が溢れてきた。君たちは……本当に……」
しばらくの間、田中さんは涙が止まらなかった。
でも最後には、ソフィアと俺に再び会えたことを喜んでくれた。
「地上に降りることは難しいんです。でも今回は特別にするべきことがあり、天界を出ました。でもそれを終えたら、また戻らなくてはいけなくて……」
ソフィアの言葉に、田中さんは静かに頷く。
「日本には妖がいてね。彼らはひょっこりと街中に姿を現すことがある。だから君たち二人が天使で、ひょっこりこの地上で現れたということも、すんなり理解できたよ。これが最後ではないことを祈る。また機会があり、地上へ降りてきたら、ぼくのことを思い出してほしい」
ソフィアと俺は「はい」と返事をして、田中さんとの通話を終えた。
次回更新タイトルは「ファンにとっては垂涎もの」です。
明日もまた読みに来ていただけると大変嬉しく思います。
それでは明日も勉強、お仕事、頑張りましょう‼




