キスであんなに舞い上がっていたのに
ガブリエルのことを話すと、エウリールは頭を抱えた。
「ガブリエル……。おれがなんのために地上へ堕ちたと思っているんだ⁉ しかもなんなんだ、その邪魔の仕方は。マティアスに悪魔狩りをさせるって……悪夢だろう。それに神聖な清めの儀式まで悪用しやがって。なんでガブリエルが放置で、俺が縛りを受けている⁉」
エウリールが物憂げな顔で俺を見る。
「……同情するし、尊敬するよ、マティアス。お前、ホント、よく我慢できているな」
「仕方ないだろう。無茶をすれば記憶を奪われ、人間として地上に堕とされるんだ。ソフィアと離れ離れになるぐらいなら、我慢するしかない」
「けど、マティアス、お前は千年以上その時を待ったんだろう? キスできるだけであんなに舞い上がっていたのに……」
思わず俺は赤くなり、エウリールに「余計なことを言うな」と憤慨していた。
すると……。
「ガブリエルが意地悪をするのは、エウリールとラファエルが地上へ堕とされ、その原因が私とマティアス様にあると思っているからです。実際、そうですしね……。ラファエルの場合は愛する二人を引き裂こうとしたので、自業自得と思うのですが、ガブリエルはそう思っていません。私とマティアス様があの神殿で婚儀を挙げるためには……一日も早くエウリールとラファエルが天界に戻ってきてくれるしかないかと」
「なるほど。ソフィアの言う通りだろうな。それに神殿の管理は元々おれがしていたんだ。天界に戻ったらおれの権限を行使して、ガブリエルに邪魔はさせないよ」
その言葉にソフィアと俺は顔を見合わせる。
そしてソフィアが口を開いた。
「あ、あの、神殿の管理は、エウリールがしていたのですか⁉」
「管理というか、神殿を作ることを提案したのがおれなんだよ」
「……!」
ソフィアも俺も目を丸くした。
「天使は繁殖しなくとも魂が巡回しているから、婚姻という制度がそもそもいらなかった。それに天使になった魂は、愛欲や肉欲から解放されているから、好きや嫌いの感情とは基本無縁だった。でもゼロじゃない。特定の相手に強い感情を持つ天使も現れた。
でも主は天界に恋愛や婚姻を持ち込むことを良しとせず、もし結ばれたいなら地上でしろと、記憶を残したまま天使の力を奪い、堕とすという方法をとっていた。おれはそのやり方が気に入らなくて、あの神殿を作らせた」
まさかあの神殿のシステムを作り上げたのがエウリールだとは思わず、ソフィアも俺も、驚くしかなかった。
「天界と魔界の戦いは必ず集結する。そうなると魂の巡回が遅くなる。天使の数は一定数を保ち停滞することになる。そこに新たな血もなく、同じ奴らばかりで同じような日々を過ごしていたら……ひずみが起こると感じていた。停滞は衰退、前進は進歩だと主を説得した。……まあ、あの頃のおれは、まだ大天使として主に信頼されていたからな。思いの外あっさり、神殿を作ることを認めてくれた」
「そうだったのか。なら、なおさらだ。エウリール、一日も早く天界へ戻ってくれ」
エウリールは神妙な顔で頷く。
「そうだな。マティアスをこれ以上お預け状態にしたら、狂いそうだからな」
「おい、エウリール、言い方!」
「いや、失礼。でも実際、辛いだろう?」
……それは辛い。
が、ソフィアもここにいるんだ、エウリール、それ以上余計なことを……
「あ、あのエウリール、そんなに辛いことなのですか?」
ソフィアが真剣な顔で、エウリールに尋ねていた。
俺は頭を抱える。
ソフィアは……真面目だ。
エウリールが神妙な顔で言うから、本気で俺のことを心配している……。
「そうだな。でもソフィア、これは男にしか分からないことだと思う。もう男の性だから」
「エウリール、この件はもういい。お前とラファエルが戻ってこない限り状況は好転しない。せいぜい俺とソフィアのために、善行活動に勤しんでくれ。それに本題は別にあるからな」
エウリールもソフィアも話すのを止め、俺を見た。
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次回更新タイトルは「ついやらかしてしまった」です。
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