おれが女を抱こうとすると……
「いやー、しかし、よく地上へ降りてきたな。悪魔狩りを……」
俺はエウリールの耳元で囁く。
「エウリール、ここには神の家のスタッフが沢山いるんだ」
「おお、そうだった。じゃあ、おれのことを話そうか」
エウリールは歩きながら、なぜラファエルとユニットを組むことになったかを話し始めた。
「マティアスに記憶を見せた後、おれは主に何か言われる前にとっと地上へ降りた。どうせ人間に堕とされると分かっていたからな。日本には仲がいい女が何人もいたから、まあその誰かに会いに行くつもりでいたんだが……。突然手首に激痛が走った。驚いたよ、見てみろよ、これを」
エウリールはソフィアの肩から腕を離し、自身の髪の色と同じ、鮮やかなエジプシャンブルーのパーカーの、左袖をめくった。
左の手首には、黄金の腕輪がガッチリはめられている。
「主が四大天使に与える天使の輪だ。おれは天界からはみ出した時、すぐこれをはずすが、今回はこれが肉に食い込むのじゃないかという勢いで、手首に絡みついてきた。どうしてもはずことができなかった。しかも、この鳩だよ、問題は」
その腕輪には、オリーブの枝をくわえた鳩の姿が、浮き彫りにされていたのだが……。
「この鳩の目に埋め込まれた宝石、今は綺麗な碧い色をしているだろう? これが、おれが女を抱こうとすると、突然赤色に変わる。で、腕がちぎれるんじゃないかっていうほどの激痛が、腕輪をつけた左腕に走る。驚いたよ。女なんて抱いていられない。
しかもさらにここから主の声が聞こえた。『ウリエル、お前は少しやり過ぎだ。丁度ラファエルも地上に堕ち、修行の身となった。二人で精進するがいい』ってさ。で、この鳩がおれをラファエルのところまで連れて行った。おれが右に行こうとしても、鳩がおれの体を左に引っ張る。そんな感じでラファエルのところに辿り着いて……」
エウリールは盛大にため息をつく。
「ラファエルは左手の薬指に、おれと同じように天使の輪を、指輪という形でつけていた。で、おれと同じように、主からメッセージを受け取っていた。それでおれに持ち掛けたんだよ。ユニットを組もうと。で、チャリティー活動を共にしようと」
「それで芸能活動を開始したのか?」
俺の言葉にエウリールは「ああそうだ」と不本意そうに頷く。
「最初は、そんなものはやらない、と突っぱねた。だが、鳩が……。で、いつの間にかラファエルの隣の部屋に、おれは住むことになっていて。ラファエルはラファエルで勝手におれの芸名を決め……でもその芸名がMisfitと来た。ラファエルの奴、なかなかセンスあるよな?」
Misfit……はみ出し者。
エウリールは天界では異端児なので、この芸名が気に入ったようだった。
「で、やるからにはちゃんとやろうと思い、Misfitの名にふさわしい姿になったわけだ」
「それがその鮮やかな髪の色ということか?」
「まあ、鳩が許してくれたのがこれだけで、本当は他にもいろいろやろうとしたんだが……」
「でもエウリール、爪も髪と同じ色のマニュキュアを塗っていますよね。それに耳にも髪と同じ色の宝石のピアスをつけていますし。鳩さんは結構許してくれたのでは?」
ソフィアの言葉にエウリールは瞳を細める。
「……ソフィアはホント、優しいな。ああ、そうだよ。鳩の奴、爪の色を見た時は怪我でもしたのかと心配していたけどさ、まあ、認めてくれたよ。ピアスもな。大天使でピアスの穴開けている奴なんていないからな。というか天使でもいない。よく認めてくれたと思うよ、うん」
どうやら鳩は……主は、エウリールが言うほどキツイ締め付けはしていないのかもしれない。
いや……エウリールと言えば、女好きだ。
魔界に来てからは、毎晩違う女悪魔と床を共にしていると言われていた。
だから禁欲生活を強いられているというのは……。
本人としては、かなりキツイだろう……。
でもまあ……俺も我慢しているんだ。
頑張れ、エウリール。
心の中でエールを送ったところで、部屋が見えてくる。
ソフィアがカード―キーでドアを開け、俺たちに入るように促す。
エウリールは喜んで部屋に入っていく。
部屋に入り、ぐるりと見渡したエウリールは、不思議そうな顔をする。
「……なんでこんなに狭い部屋? 前回お前たちが案内されていた部屋は、もっと広かったよな? これじゃ一人部屋じゃないか」
そこで言葉を切ったエウリールは、信じられないという表情で俺を見る。
「おい、マティアス、ノーと答えてくれよ。まさかお前、ソフィアのこと、まだ抱いていないのか⁉」
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次回更新タイトルは「キスであんなに舞い上がっていたのに」です。
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メリークリスマス‼




