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1,サブヒロインだと、気づいてしまいました。


 ある日の朝、いつものように長い銀の髪をまとめようとしていた時──オレ(・・)は気づいてしまった。



 オレが見ていたアニメの世界に転生していたことを。

 そして、そのサブヒロインだった事を!






 そのアニメの題名は『炎の魔術師なんだが、拾った美少女が水の使い手だった』である。

 まぁ、よくあるなろう系というやつで、『周りから虐げられてたら、実はすごいスキルの持ち主で、最後はざまぁして、ハーレムされる』というようなものだ。


 アニメは三期まであったと思うが、四期も制作途中だとか、風の噂で耳にしたような……。


 いや、そのことはいい。今は自分のことだ。




 鏡に写った自分の姿を見つめ、よくこれまで自分が、美少女だと自覚がなかったものだと感心する。


 こちらを見つめ返してくるのは、ワインのように深い赤色をした瞳だった。光を受けて煌めくさまは、いかにも最上級の宝石のようで、我ながらため息をついてしまう。

 流れるような銀色の髪は腰まで届き、川のせせらぎの如く。

 肌は滑らかなシルクのようで。



 うん、めっちゃくちゃ美少女!!



 人間超えちゃってるよね? レベルである。

 前世のオレならお声がけもできないような、見るのも眩しい美しさだ。

 14歳でこれとか、すごくないか? 完成された美しさなんだが?



 彼女の名前はリズ・シルバー

 14歳 処女 彼氏なし 見た目はバリバリのロリっ娘

 そして……ツンデレ


 前世では怒られたいランキングぶっちぎりの一位なんじゃないかと思う。

 自分統計だが。


 リーナの『もう、なにしてるのっ!?』は、本当もう毎度見るたび、ズキューンと心臓撃ち抜かれましたよ、ハイ。


 ちなみにオレの最推しはフィオーネなんで、そこんとこよろしく。



 ……おっと、このままでは『まじゅつか』語りになってしまう。ちなみにアニメの略称は『まじゅつか』である。


 

 さて、どうしようか。

 地面に落ちてしまったリボンを拾い上げ、クルクルと結び、ツインテールを完成させる。うむ上出来。

 長年やってきたことだ、前世が男であれ、身に染み付いたことはどうでもできる。


「リズお嬢様、」


 ノック音とともに、落ち着いた声が聞こえてきて、オレは振り返る。

 メイドさんだ。そういえば、リズはどっかの商家のお嬢様だったか。


「わかった」


 そう返してメイドさんについて行こうとすると、彼女は驚いたように一瞬立ち止まって、こちらを見てくる。

 え、なに? オレなんかした?


 しかし、メイドさんは種明かしすることなく、「いえ、参りましょう」とだけ言ってスタスタと先を進んでいってしまう。


 まぁ、いいか。




 それにしても、広い家だ。

 アニメでは描かれなかったリズのお家だが、彼女のセリフで「貴族のお屋敷は自分の家と比べ物にならないくらい大きい」と、こぼしていた事を鑑みるに、貴族から見れば目じゃない大きさなのだろう。


 いやすごいな?


 つやつやの床を歩いていくと、壁のそこらに絵画のようなものが飾ってあるし、大きな窓からは小さくなった街が見下ろせた。

 所々ある扉のどれも、立派な細工が施されているし、これ以上の家とか、見ただけで圧倒されるのだろう。

 それが目当てで豪奢な飾りを加えているのだろうが。


「お嬢様」


 家のちょっとにワクワクしているオレに気づいているのかいないのか、メイドさんはオレに声をかけ、ピタリと足をとめてしまった。


 目の前には煌びやか……とまではいかないものの、重厚な作りのドアが佇んでいた。


 彼女はギィ、と扉の手をかけて開けてみせる。


 なかは、ちょっとした食堂のようだった。家族らしき、リズと同じ髪色の人々が、席についていた。


「リズ?」


 そのうちのまだ裏若い、リズを少しだけ引き伸ばしたような少女が、声をかけてくれた。お姉さんかな?

 でも何でそんな動揺した感じなの。


 オレは何も返せずに、微かにお辞儀をして、その人の隣に着席した。何となく、そういう感じだったからだ。

 正面には、お母様らしき人、斜め左にはお父様らしき人が威厳を持って座っていた。


「リズ、珍しいね」


 本当に珍しいものを見たように、お姉様もどきが言う。おはようより先に言うほどですかね。

 えぇと、お姉さんの名前は何だったっけなぁ。





 そうやって彼女の名前を考えているうちに、ふと、気づいた。



 リズって、お姉さんに劣等感を抱いているのじゃなかったけ? と。


 そうだった。リズがツンデレ系なのは、昔から優秀なお姉さんに比べられて、親から十分な愛情を受けられなかったせいで、人への愛の伝え方がわからなかったから……。

 風の魔法を幼い頃から体現させ、勉学についても神童と言われてきた姉に、リズは密かな憧れの裏に、ひそかな劣等感と、憎しみを滲ませているのだ。


 嫌いだけど、嫌いじゃない、そんな複雑な感情を背景に、リズの物語は語られる。

 だから、リズが風の使い手として力を開花させた時、泣いて喜び、姉との関係も修復されるのだ。



 ははぁ、つまりこのお姉さん、





 リズのツンデレ属性を育てたお方なのか!

 ありがとう、ティーナさん。そして彼女を産んでくれたお母様、お父様。


 これってもう推しに言う言葉のような気がするが、ここまで生きてくれてありがとう!

 体が弱い設定だったのに、ここまで生き延びたのはすごいよお姉様!

 そして、これからもどうぞ末長くお幸せに。


 なんかもう、最終回のようなことを言ってしまったが、まだ序章の序章だった。

 主人公にもまだ会ってないし、


 何しろフィオーネにも会ってないしな!




 えーとどこまで話したっけな。頭がもうバグってるよお姉さんティーナのせいで。


 そうそう、お姉さまの名前は、ティーナだ。

 ティアラみたいで可愛い名前だよな。


 ちなみにアニメで彼女の名前は明かされない。だってリズの記憶の中の人だもん。

 だからこれは原作小説の中でのことである。


 オレ、全巻読破してんで。


 ともかく、頭を高速フル回転させて導き出した言葉は、


「そうですか、わたしが居るのいけませんかね?」


 という、煽ってんのかと言うレベルに、棘のある返事だった。

 だって『わたし』とかなんか、ゾワっとするもん!

 オレ前世社会人ってわけじゃなかったんで、『わたし』とか言わなかったんだよ。

 女言葉をなるべく使わない方向で、って考慮した結果がこうなんだよ。

 

「え、あ、リズ、そうじゃなくって、ただ……」


「リズ! 何だその言い草は!」


 ティーナさんが慌てたように言おうとすると、彼女を庇うように(?)というかオレを糾弾するように、父親の方が声を荒げた。

 うん、すまなかった、ティーナさん。でもなんか知らないおじさんに叱られると、謝る気なくなるよね。

 親に『勉強しなさい!』と言われてやるようなやつが居るのか?

 居るのか、そうか、それならそいつは将来、おじさんに怒られて仕事ができる、ブラック会社に勤めるがよい。オレは、嫌だかんな。


「何ですか? 別に聞いただけじゃないですか」


 口からスルッと落っこちてきた言葉は、火に油を注ぐようなものだった。

 おいオレ! 何やってるの!?

 てかそんなスルッと出るもの? まさかこれ、リズの標準装備的なものなんですかね?


「何だとぉぉぉ!今すぐ謝りなさい!」


「お父さん、リズだってそんなつもりじゃなかったのよ、きっと」


 ティーナさん頑張れ! オレが口開いたら、また何か失言しそうだからな。


 それにしても、このお家、大丈夫か不安になってきた……。


 だって、道で知らない人にぶつかられたからって、謝れェェェ!! って怒鳴りますかね。

 他人にやっていかんことは、身内にもしちゃいかんだろう。


 嘘つきは泥棒の始まりっ、ならば、暴言は家庭崩壊の始まりってか。


 この世界では、それが普通とか? え、こわ……。


「はぁ、もういい。じゃあね」


 流石にもうここにいたら場を乱すような気がして、申し訳なく、立ち去ろうとしたのだが、



 リズ、ほんとさぁぁぁぁ!



 とまぁオレは、テーブルを後にすることにした。

 無念……











 毎週土日曜更新できたらいいなと思っております。あくまで目安です。

 気長にお付き合いくださいまし。

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