エピソード2:うーん……
そして十秒ぐらい経ったところでリラが大きな声で言った。
「ねえ、そっちは何か見える?」
「うーん……かなり広い廊下っぽいのが」
「やっぱり? あたしも!」
リラがそう言ったあと、彼女は「よいしょっと」と掛け声をあげて、エリは無言で、二人同時に扉から離れた。そしてパンパンとパジャマについた汚れをはたきおとしてからリラは言った。
「かなり広かったよね。お城なんかで王様に会うまえに通っていくような、バカ広い廊下、あんな感じだったよね?」
「うん、でもこっちのはそうとうボロかったけど」
「そうそう! それに超短かったし」
大きいだけのハリボテのような廊下がなんだかおかしくてふたりはクスクスと笑いあったあと、話を続けた。
「じゃあ、危なそうなのはないみたいだし、とりあえず開けてみよっか」
「でも、一応見てこよっか? わたしならべつになにかあっても、幽霊だし」
エリから再度の提案にリラは腕を組み「うーん……」と考えはじめた。いちおう外にはなにもなさげなのを確認したとはいえ、よくよく考えてみればこの扉がそうであったように突然なにかが現れることもじゅうぶんありえる。そうなるとエリの言うように、なにかがあっても問題なくやり過ごせるであろう彼女に、扉の先を見てきてもらうのがより安全といえば安全ではある。しかし――――。
「なにを悩んでるの?」
眉をひそめるリラにエリは聞いた。
「あー、いや、いくら幽霊だからって言ってももしかしたらってこともあるし……」
「それならさっき外、見にいったけど?」
そう言われて、そういえばとリラは思い出した。
「でも、あれは勢いでというか、ね? 思いついたまま言っちゃっただけで……」
痛いところをつかれて困ったように言い訳をするリラを、エリはただただ無言で見つめる。しかも「もう行くいがいに答えはないからね」と言わんばかりにすこしだけ浮かんで。それだから上から見つめられる圧も加わって
「わかったよ。じゃ、お願いしてもいい?」リラはついに折れた。「あ、でもなにかあったら叫んでね。すぐ飛んでいくから」
「うん」
そのお願いにうれしそうに返事をして、エリはスーっと空中を滑るように扉の先へと向かった。リラは彼女の黒い髪と白い服が見えなくなるまで見送ったあと、静かにためいきをついた。そしてちょっとした音も聞き逃さないように耳をすませて待った。が、集中力が持ったのはものの十秒ちょっとで、すぐに別のことに意識がいってしまった。とはいっても、主から離れてふわふわと漂っていった先はほかでもないエリのもとだった。