エピソード12:最後はやっぱりこれ
「お楽しみを始めようとしているところすみませんが、そろそろ最後の競技案内に入ってもいいですか?」
すると彼女たちの楽しさに満ちた笑顔の眉がたちまちひん曲がって、据わった目がジロリとオバケに向けられた。
「これからって時にさぁ」
「そう」
二人の『空気を読んでよ』という強烈な空気を浴びせかけられ、オバケはおもわずたじろぐがそこはなんとか抗う。
「私たちもそうしてあげたいのはやまやまなんですが、その……なんというか大人の事情的なやつで」
「……まぁそれじゃしかたないね」
リラは子どもに大人の事情という言葉を持ちだすオバケに呆れ笑う。エリも苦笑いを浮かべて、手に持っているフィギュアを元の位置にそっと戻した。そして話を進行できそうで一安心しているオバケにリラは言った。
「で、最後の競技はなんなの?」
「それはもちろん! この部屋でやることと言ったらあれしかありません!」
高らかな宣言とともに数体のオバケが部屋のあちこちから躍り出ると、ふたりの前にあるものを置いた。それはリラにとっては毎日見飽きるほど目にしても飽きることのないもので、エリにとっては馴染みがないけれどもしかしたらいま一番欲しかったかもしれないもの、そしてないことに気がついていたけれどあえて触れなかったもの――最新のゲーム機だった。ゲーム機を運んできたオバケたちはそれからせっせとプラグをコンセントに挿したり、モニターとコードでつないだりしていつでもできるように準備をはじめた。
「ここまできてゲーム?」
しかし用意が済んだところでリラが不満ありげに言った。まさかの反応にその場にいた全員が驚いて彼女を振り返った。エリにいたっては天地がひっくり返ったのかと思うぐらい驚愕し目をこれでもかと見開いて、楽しみに楽しみにしていた旅行が中止になる気配を感じ取ったときのようにドキドキしていた。
「それじゃやらなくていいんですか?」思いがけない事態に戸惑いつつもオバケは尋ねた。
「そりゃあ――」のあとすこしタメて「やるに決まってんじゃん! ね? エリ!」と不安におびえる彼女に満面の笑みを見せた。
「え?」
「……あれ? エリはゲームしたくなかった?」
「!! ……ううん。やりたい」エリは首を振って答えて、それから聞いた。「でも……いまやらないみたいな感じだった」
「いやね、ふと今日ずっとエリとかオバケに驚かされてばっかだなって思って、なんかやり返したくなったんだよね。それでどう? ビックリした?」
「ビックリしたっていうか正直どうかしちゃったのかと思った。だってあのリラが」
「えぇ、あたしってそんな感じなの?」
リラがみんなに尋ねるとエリもオバケたちもそろって即座に頷き返す。それを見て彼女は苦笑いを浮かべる。成功したもののなんだかなという具合にリラのイタズラが終わり、オバケは進行に戻った。
「では予定どおり最後の競技はゲームに決まったところで、対戦相手の紹介をしたいと思います」
「それ、それ!」リラは思い出したかのように大きな声を上げた。「最後の最後、言ってみればこのゲームのラスボスなんだからちゃんとしたやつ出してよ!」
「もちろんです。まかせてください。――今宵、最後におふたりの前に立ちはだかるのはこの人です!」
その瞬間、部屋が薄暗くなり、スポットライトがパッと一人のオバケを照らし出した。光の幕の中で胸をこれでもかとはってドヤ顔をかましているのは彼女たちの目の前の――案内役のオバケだった。スポットライトは消え、部屋も元の明るさに戻った。しかしラスボスはまだ得意げなままで彼女らに言った。
「どうです? わたしほどラストを飾るのにふさわしい相手はいないと自負していますが」
「いいじゃん、いいじゃん! どうせ変なやつが出てくるんでしょって思ってたけど、案外わかってるね!」
「そうなの?」
「初期からいたやつとか主人公を導いていた存在が実は……っていうのは王道だから、ラスボスにピッタリ」
「お褒めの言葉ありがとうございます」思っていた以上の高評価にオバケは照れて頭をかいた。「では準備も済んでることですしそろそろ始めましょう」
三人は床に座って置いてあるコントローラを持ち、リラがホームボタンを押して電源を入れると、老若男女誰もが知っているといっても過言ではないロゴが映った。
「そういえば三人でいいの?」リラはふと思って聞いた。
「孤独なのがラスボスですから」
「なるほどね」そう言ってリラはスティックを動かした。「これでいい?」
「オッケーです」
「エリもオッケー?」
「オッケ」
そして
「じゃゲームスタート!」
リラは元気よくボタンを押した。




