エピソード10:終わりはやってくる
案内役のオバケが三人の前に出て、
「お疲れ様です。これで二つ目の競技『的当て』は終了です」
「そんなことより大砲の音デカすぎ!」耳をふさぎながらリラは怒った。
「心臓飛び出るかと思った」エリも耳をおさえながら言った。
「それは本当にすみません。大砲の調整だけ忘れてました」
「もうしっかりしてよ。で、結果はどうなの?」
「待ちきれないとのことなので、みなさんスコアボードにご注目ください」
オバケがそう言うと両端のスクリーンが高速でランダムな数字を映しはじめ、
「『的当て』の勝者は……!」
そして止まった。
「ミス・ハンターです!!」
その瞬間、後ろの観客席から大きな歓声と拍手が巻き起こった。
「スコアは123対96。最後の大砲で一気に稼いだものの残念ながら負けてしまったおふたりにも大きな拍手をおくってください」
それでリラとエリにもおしみない拍手が送られるが、ふたりは―特にリラはぶすっとして―不満気。それを見たオバケが尋ねた。
「どうしたんです? なにか文句がありげな顔をしていますが」
「あるに決まってんじゃん!」リラは食い気味に返した。「なにあの強さは!? チートじゃん! そりゃあの兄弟みたいにへっぽこなのはつまんないって言ったけどさ、バランスっていうもんを知らないの?」
リラの文句にエリも同調してうんうんとうなずく。
「もちろん知ってますよ。だからバランスをとった強さにしたんです。最終ステージの三本勝負でいきなり二勝されたらマズイですから」
「開発者の都合ね。はいはいクソゲー、クソゲー」
とリラが非難するとエリが「ふふっ」と笑い出した。
「どうしたの? エリ?」まさか笑うとは思っていなかったためリラはすこしどぎまぎしながら尋ねた。
「ごめん。今の言い方がなんだかおかしくて」
「そう?」
「うん」
聞き返すリラにエリはくすくすと笑いながらうなずく。もともとちょっと言ってやろう程度で始めた文句でたいして怒っていなかったのが、エリの笑顔でさらに毒気抜かれて、ついにはリラも笑い出した。
「まあ、今回はエリに免じて許してあげるよ」
「ありがとうございます、エリさん」とオバケが頭を下げると
「どういたしまして」エリもお辞儀をした。
これにて一件落着し、話は次に移った。次に――そう、最終ステージの三競技目、お別れの前へとやってきた。
「それでは三つ目の競技の説明に入りますがよろしいですか?」
ただの看板に書かれただけの文字が、他の時といっさい変わりようがないはずなのに、この時ばかりは重々しく感じられ二人は押し黙ってしまった。その胸の締め付けられる沈黙は自然と案内役のオバケにも観客席のオバケたちにも伝わっていった。しかし、やはりその悲しみを打ち破ったのはリラだった。
「いいに決まってんじゃん! ね? エリ」しかしその声は震えていて強がっているのが誰の目からも明らかだった。
問われたエリは、真っ白な自分の服を大きな皺ができるほどギュッと握りしめうつむいていた。リラの心が泣き出したくなるほど痛んだ。エリの思いが痛いほど伝わってくる。自分もまったく同じ気持ちだったし、なによりエリと自分とではこの終わりの意味がまったく違っているのもわかっているから。それでも彼女はエリの手を取って言った。
「あたしも終わっちゃうなんてイヤだよ」その声は涙に震えていた。「だけどもしこれで終われなかったら、たぶんもっと苦しいことになっちゃうと思うんだ」
エリはすこし顔を上げた。上目づかいにリラを見る。その瞳は痛みと悲しみに揺れていて、そして何かを理解したような色を見せた。リラの両手はどうしようもできない冷たさを今、一番感じた。エリはまた顔を伏せ、ややあってうなずき、そして言った。
「……そうだね。ちゃんと終わらせる。終わらないゲームなんてないもんね?」
エリからの問いかけにリラは驚いて、嬉しくなった。
「そうだよ! やっぱりどんなに楽しいゲームでもエンディングがないとね!」
ふたりの心は固まり、オバケに向き直った。
「本当によろしいですか?」オバケは彼女たちの陰りも曇りもない表情からその決意をはっきりと感じつつも問いかけた。
「オッケー!」
「うん!」
リラとエリは間髪いれず答えた。
「それではおふたりにお願いがあるのですが、私がいいと言うまで後ろを見ないでもらいたいのです。とっておきのステージを用意しますので。よろしいですか?」
「いいけど、ちゃんと“とっておき”なのにしてよ?」リラはどうせと言いたげな顔をしなおかつ肩をすくめて言った。
「だいじょうぶです! 今回はその言葉に偽りなし! ですから」
「だってさ、期待しないで待ってよっか」
「うん」
リラとエリはニヤニヤと笑い合いながら言った。
「じゃお願いしますね。絶対に振り返らないでください」
「オッケー」
「うん」
リラは楽しそうに返事をして、エリはうなずいた。それで案内役のオバケが指示を下すと、ふたりのいるカウンターと置いてある銃がたちどころに消え(ミス・ハンターはいつのまにか退場していた)、足場がなくなり一瞬リラがびっくりしているあいだに背後の観客席も観客もろとも片付けられた(そんな気配がした)。そしてどんな“とっておき”を用意しているのか、後ろを覗きたくなる欲求をなんとか抑えながら待っていると、まもなくいつものオバケが現れて言った。
「お待たせしました。どうぞ振り返って、見てみてください」
ふたりは目を合わせたあと、せーので一緒にくるっと回った。




