エピソード2:一本目は?
「お騒がせしてすみませんが、さっそく最終ステージの説明に入りますね」
リラとエリはうなずいた。
オバケがくるっと看板を回した。
「横断幕に書かれている通り最後のステージではおふたりに三つの競技に挑んでもらいます。競技内容はその時までのお楽しみということで今はお話しできませんが、その三つの競技のうちどれか二つで勝利をおさめることができれば最終ステージクリアとなります」
「じゃ二勝できなかったら?」とリラ。
その質問にオバケは看板をひっくり返して答える。
「その時は生きながらこのゲームもマンガもお菓子もジュースもない、楽しいことうれしいこともいやなこと苦しいこともない、全部が全部真っ暗な無の世界で永遠の囚人となってもらいます」
答えを読み終わってその内容を理解したリラは、これまでで一番深いしわを眉と眉の間に刻んで、困惑したように言った。
「えぇ~なんでそんな急に物騒な話になるの? これってそんな感じだった?」
するとオバケはクスクスと笑った。
「というのはもちろん冗談です。かりに一回も勝てなかったとしても罰があるわけではありません。ただ敗北者の烙印を押され、お家に帰ってもらうだけです」
「いや、むしろそっちのほうがイヤまであるよ」苦い顔をしてリラはつっこんだ。
オバケはそのツッコミを笑って受けながら看板を裏返した。
「とにかく勝ったにしろ負けたにしろ、時間が来たらリラさんはお家に帰るようになっています」
苦い顔は『帰る』という文字にやはり曇った。最後まで楽しもうと決めていても別れのことを考えると胸が苦しくなる。するとリラの左手がなにかひんやりとしたものに包まれた。ハッとしてリラは左手の先を見た。かすかな悲しみを帯びた黒目が髪の隙間からこちらをじっと見つめていた。リラもエリを見つめ返し、ふたりは無言のうちに気持ちを交わし合った。
その様子を見守っていたオバケは時機を見計らって看板を見せた。
「では一つ目の競技の案内に移りますがだいじょうぶですか?」
彼女たちはうなずいた、と同時に観客席から二体のオバケが飛んできて、リラの両腕を掴み、彼女を持ち上げた。突然のことに戸惑いつつもリラはとりあえず大人しくしていることにし、エリもそれにならって自前で浮かび上がった。すると彼女たちの足元の床がパックリと割れ、ふたたび深淵が姿を現した。それを見たリラが「げっまた落ちてくの!? 勘弁してよ」と心のなかで愚痴っていると、彼女の予想に反して、今度は深淵の底から木の床がせりあがってきた。その床は宙ぶらりんのリラの爪先ピッタリの高さで止まり、彼女はそこにおろされ、エリも着地した。そしてリラを持ち上げていたオバケが役割を終え観客のなかへ戻っていくと、いつものオバケが案内を始めた。
「記念すべき最初の対決はホッケーです!」
「ホッケー?」
それが合図だったかのようにリラのつぶやきのあと、彼女たちのいる足場の前方の一部が開き、船の舵輪に似た輪っかがでてきた。それを見てリラはこの対決の全体像を把握した。
「おふたりはホッケーをご存知ですか?」
「あたしは知ってる。エリは?」
「わたしも知ってる。丸いやつを相手のほうに入れるやつでしょ」
「そうです、そのホッケーです。おふたりとも知っているようですが簡単に説明しますと、フィールドを暴れまわる円盤を、自分のゴールに入らないように防ぎつつ相手のゴールにはじき返し入れ、先に規定の点数を獲得したほうの勝ちとなる競技です」
「はいはい」
「ですが、このホッケーはおふたりの知っているあるいは遊んだことのあるホッケーとはすこし違います。それは実際に触ってみたほうがわかりやすいと思うので、リラさんかエリさんどちらでもかまいませんが出てきたハンドルを好きなほうへ回してみてください」
そう言われふたりは相談を始めた。リラとしてはここまでなにかと自分を優先してくれたし最後なのだからエリに触ってもらいたかったのだが、まるで見上げるほどの巨大な岩石かのようにエリはいつにもまして頑として譲らず、結果今回もリラが試すことに決まった。譲るつもりであったとはいえ本音では触りたかったリラは、うずうずしながらハンドルのところまで行き握ると、ゆっくりと時計回りに回し始めた。足場がガクッと揺れ、右へと動き出す。
「おお!」
といつもの驚き方をしながらリラはそのまま回し続ける。まもなく足場が端にぶつかって止まったので、今度は左へ回しだしそれに合わせて足場も左へ移動し始めた。やがて左端にも当たり、それからリラが右左へとちょこまか動かし細かい感触を確かめていると、オバケが彼女の隣へやってきて説明を加えた。
「ハンドルの真ん中のボタンを押してみてください」
「ボタン?」
そう言いながらリラがハンドルの中央を見ると確かに出っ張りがあり押せるようになっていた。
「これ?」
「はい、そうです」
「じゃ……」
車のクラクションを鳴らすようにリラは思いっきりボタンを押した。ボンッと鈍い大きな爆発音と同時に足場の下半分が前方に飛び出た。そしてギリギリと巻くような音をたてながら三秒ほどをかけてもとの場所へ収納された。
「なるほどね。これで勢いづけろってこと」
「そのとおりです。再使用にはちょっと時間がかかるので使う際は気をつけてください」オバケは続けて「そのハンドルで足場を操作してゴールを守りボタンで決めに行く――ホッケーの遊び方はだいたいこんな感じです。わからないところはありますか?」
ふたりは首をふった。
「では、対戦相手に入場してもらいましょう!」




