エピソード1:落ちてきた
だんだんと叫び声が大きくなってくる。
やがて壁に空いた大きな穴から黄色いのが猛スピードで飛び出てきたかと思うと、ボスンと音をたてて白いクッションの上にリラは落ちた。そして
「あー! もう!」と声を荒げ、両手でクッションを叩いた。
バスンという音が虚しく響き、リラは上半身を起き上がらせるとそれから四つん這いになって、もぞもぞと進みはじめた。するとリラがクッションからいま降りようとしたところで、背後でさっき聞いたばかりの音がした。エリも到着したようだ。リラが振り返ると、エリはすぐに起き上がり同じようにハイハイでやってきた。
「エリもすべってきたんだ」リラはエリが来るまで待って声をかけた。
「うん」それにエリはうなずいて返した。
そしてクッションから降りるのかと思いきや、リラはじっとエリを見つめたまま動かなかった。その視線は何かを確かめているようだった。
「降りないの?」そのことにエリは気がついたが、聞きはしなかった。
「あ……いや、降りるけど……どうだったかなって。なかなかこんな滑り台ないからね」リラは苦笑いをした。
「迫力あっておもしろかったけど、ちょっと怖かったかも。リラはどうだった? 急に落とされたから色々たいへんだったんじゃない?」
エリがそう言うと、リラは上での出来事を思い出し、眉間に皺を寄せた。
「そうそう! 急に床が開いてさ、慌てて止まろうとしたけど止まんなくて、そのまま飛び出した時は本当に死んじゃうと思ったもん。だって、走馬灯見たんだよ! これまでの思い出とか記憶とかがぶわって、一気に頭んなかを流れていってさ! それでもうダメだと思ったらオバケが出てきてあたしをつかまえて……それに、あれだよ! あれ!」話しの途中でさらにまた何かを思い出してリラは声を上げた。
「あれって?」
「あのオバケの塊!」
「ああ」
「あんなんただのバケモンじゃん! あたし振り返ってみた時、おもわず叫んじゃったもん!」
「わたしもあれにはちょっと引いた」
「でしょ! それであんな変なやつに追いかけられて、罠にはめられて落っこちるかと思ったら落ちなくて、なにがなにやらもう頭が追っつかなくてぼうっとしてたら、足元で電気がついて、この滑り台が見えて、それからはじっこに座らされて、準備はいいって聞いてくるからついわかんないままうんってうなずいちゃって、気づいた時にはもう遅かったよ。グッて背中を押されたと思ったらものすごいスピードで滑り出しちゃってさ、あれは滑るっていうより落ちてたよ」
と次から次へと文句を吐き、しかめっつらのままであっても、そのじつ楽しんでいることはエリの目から見ても明らかだった。
思いのたけを吐ききったリラとそれを微笑みながら聞いていたエリは、クッションから降りて体をはたいたあと、部屋をぐるっと見回した。ふたりが滑り落ちてきた部屋はいつも通りのボロ壁にボロ床で滑り台の出口とクッション以外には家具はなかったが、正面と左右にひとつずつ――計三つの扉があった。と彼女たちが部屋の様子を見ているところへ突然、天井からオバケが一体、目の前に降ってきた。しかし、リラもエリもほとんど無反応だった。ただ視線をそちらに向けただけで、あまりに静かだった。その静けさにオバケのほうが困惑している。そんな彼? 彼女? にリラはエリのほうへ顔を向け肩をすくめた。
「さっきのアレのあとじゃ、ちょっとね」
「まあね」




