エピソード5:つめたいあたたかさ
「はい、おつかれさま」
あっという間にお楽しみの時間が終わり、エリはリラをぶらさげたまま部屋の中央に戻って、そう言いながら慎重に彼女をおろしていった。やがて地面に降り立ったリラはくるりと振り返り、エリが降りてくるのを待ってから言った。
「もうマジでヤバかった! ありがとう、エリ! ほんとにありがとう!」
「いいよ、全然。でも……」
気まずそうに言いよどむエリを見てリラは「もしかしてなにかしちゃった!?」と思ってウキウキとした気分が一気に吹き飛び、心配からドキドキと大きな音を胸のなかで鳴らしながら尋ねた。
「ん? どうしたの?」
「いや、その……いまさらだけど、こわくないの? わたしのこと」
服の胸あたりを両手でしわくちゃにし、きょろきょろと視線を泳がせてエリは言った。その心配事を聞いてリラはほっとした。そしてわだかまる不安を握っているその両手を自分の手で包みこみ、あっちに行ったりこっちに行ったりと不安定な眼をつかまえて答えた。
「正直にいうとこわかった。最初にこうして触らせてもらったとき、おもってたよりも……その、冷たくて。それでほんとうに死んじゃってるんだってわかって、怖くなっちゃったんだ。ごめんね」
「ううん」
「でも、いまは全然こわくないよ!」リラは笑って言った。「だって、あんなにスゴイことさせてもらったんだもん! 誰かが自分の体をすりぬけていったり、宙に浮いたり、いままでで一番びっくりしたしめちゃくちゃたのしかった」
「ほんとに?」エリは首をかしげた。
「うん! ほんとに。それにエリは知らないだろうけど、数えきれないぐらいのゾンビやバケモノ、それこそ幽霊だってぶっ飛ばしてるんだよ。それにくらべたら、ぜんぜん余裕余裕」
「ふふ、最初はこわかったのに? それにぶっとばしたって言ってもゲームのでしょ? わたしは本物だよ」得意げに鼻を伸ばすリラをエリはいたずらな笑みを浮かべて突っついた。すると
「それはそうだけどさぁ」と細長いお菓子のようにかんたんにポキッとその鼻っ柱が折れてしまい、そのあまりのあっさりぐあいにふたりはいっせいにふきだした。