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Ghost and Girl  作者: M.K
ステージ3
42/81

エピソード14:エリ アンド リラ

 つづいてリラが向かったのは倉庫だった。その名前を見たときエリの言っていたことを思い出し、ここにもなにか奇々怪々な品物があるのかなと期待していたのだが、入ってみるとただ乱雑に本がしまってあったり積んであったりしているだけだった。またもや期待外れの結果に落胆し心底つまらなさそうな顔でその本たちを調べ始めた。適当な本を一冊手に取りタイトルを見たら隣の山に乗せていく――この一連の流れをいかにも退屈そうにぐだぐだとやっていき、ある本を手に取ったとき、ふいにその手が止まりタイトルに視線が注がれた。『壁にも障子にも彼あり』。ことわざをもじったものだということがすぐにわかり、その意味を思い出して彼女はなにか閃くその予兆めいたものを感じた。その感覚を頼りに本の中身に目を通すと、予感した通りにあることを閃いた。それでしばらくのあいだ考えを巡らせたあと、彼女はトランシーバーを取った。


「あ、あ……こちらリラ。いま、大丈夫ですか? どうぞ」


 ちょっと待つと応答があった。


「こちらエリ。大丈夫です。どうぞ」

「実はひとつ重大なミスを犯していることに気がつきました。どうぞ」

「なんですか。どうぞ」

「それはこの通信にあります。どうぞ」


 リラがそう告げるとしばらくトランシーバーは沈黙した。電波の向こう側でいまエリはなんだろうと考えているんだなと、そしてどんな答えを出すのかなとリラが楽しみにしていると、ついに彼女から返答があった。


「ちょっとよくわかりません。どうぞ」


 その答えを聞いてリラはつい笑ってしまった。


「通信を始める時、どんなふうにして始めてますか? どうぞ」

「こちらエリですって名乗ってます」

「それです。こういった通信はだれが聞き耳を立てているのかわかりません。だから私たちが誰だかわからないようにコードネームをつける必要があります。どうぞ」

「コードネーム?」

「そうそう! 今みたいな無線でのやりとりっていったらやっぱりコードネームなんだよ。んで、いちおうもう考えておいたから。エリが『ゴースト』であたしが『ガール』ね! どう? 二人合わせて『Ghost and Girl』」


 リラの提案からやや間をおいてエリは言った。


「ちょっとそのまんますぎない?」

「まあ、あたしもそう思ったけどさ……でも、ちょっとだけやってみない?」

「うん、いいよ」


 最初の反応がイマイチだったのでダメかなと思っていたのだが予想に反してあっさりと受け入れてくれ、リラは喜びつつ心の準備を済ませ、ゲームに出てきた上官のように低い声でゴーストに呼びかけた。


「こちら、ガール。ゴースト、首尾のほうはどうなっている?」

「こちら、ゴースト。残念ながら、いまだなにひとつ」

「そうか。では引き続き一階の調査の方、よろしく頼む」

「了解」


 通信が終了しあたりに静寂が訪れ、その中でリラはニヤついていた。恥ずかしさと満足感でどうしても口角が上がってしまう。エリに感想を聞きたいのだが、今のままでは上手く話せないかもしれないので何度か深呼吸をして落ち着かせ、それからトランシーバーのボタンを押した。


「エリ、どうだった? けっこういいかんじだったでしょ?」


 するとやや間を置いて


「……よかったけど、ちょっと恥ずかしかったかな」

「あたしも。ちょっと演技しすぎてたかなって」リラは頭を掻きながら言った。

「びっくりした。急に低い声だすから」

「あはは……ちょっとやってみたかったんだよね。ゲームとかで軍人や特殊部隊の人たちがやってるの見てさ」

「あんまりよくわかんないけど、いつもと違う感じでかっこよかった」

「でしょ!」

「でも、コードネームもいいけど、わたしはリラって名前で呼びたいかな。リラにもエリって呼んでほしいし」


 まったくもって予想外の告白にリラはドキッとして返事に詰まってしまった。唇も目も体のすべてが、そして心もあたたかく緩んでいくのを感じるが、返事をしないままではエリを不安にさせてしまうため、急いで自分の気持ちも伝えた。


「……あたしもそっちのほうがいい、かな。コードネームもゲームっぽくっておもしろいけどさ」

「うん」


 そこでまた二人して黙ってしまった。やがてリラが口を開く。


「……それじゃ探索に戻ろっか。ありがとね、また付き合ってもらっちゃって」

「ううん、楽しかった」

「じゃ、またね。エリ」

「またね。リラ」


 通信が終わった。リラはまたしてもトランシーバーの前でニヤついている。まさかエリからあんなことを言われるとは思ってもおらず、ここまで体験してきた色んなことを思い出し、あらためてエリと出会えたことそして友達になれたことを嬉しく思った。ただそのおかげで、まだまだ顔は戻りそうにない。


「でも」とリラは思う。「それがあたしの素直な気持ちなんだからいいじゃん!」


 体の奥からやる気があふれ出してきて、退屈でしょうがなかった調査もなんのその、腕捲りをして気合を入れると物凄い勢いで片付けていった。――――

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