エピソード6:まだそっちは……
緊張が一気にほどける。リラは肺にたまっている空気を吐き出した。そして笑ってエリに言った。
「うまくいったね」
「やったね」エリも嬉しそうに言った。「それでどうする? このまま出てく?」
「うん。出たら左に行ってみよ」
「わかった」
そういうやりとりを済ませたのち、リラが立ち上がって扉に手をかけゆっくりと引き、隙間から外の様子をうかがう。廊下は夜の闇に侵されかけていた。この向きの廊下には窓がないようで、ぽつりぽつりとろうそくがさもしく灯っているだけ。そのためか荒れ狂う雨風は遠くの事のように思えた。しかし、それだけ暗く静かということはオバケは近くにいない。リラは扉を開け廊下に出ると振り返って
「だいじょうぶみたい」とエリに言った。
うなずいてエリも外に出たあと、キョロキョロとあたりを見て、言った。
「暗いね」
「うん。ちょっとライトが欲しいね」
そして二人はさっき言った通り左に進むためそちらに視線を向けた。ちょうど真正面にろうそくが一本ある。その灯火が壁と左右の道を消えるか否かの具合で浮かび上がらせている。どうやらこの先は丁字路もなっているようだが、その幻想的で物々しくもある光景にすこし足を踏み出すのをためらわれた。しかし、リラは覚悟を決め、エリに「行くよ」と言って進みだした。
まもなく丁字路に着いた。リラは左右を確認した。特に変わったところはなかったが、一ヶ所だけ気になる場所が右の道の遠目に見えた。建物の出入口として扉とその両脇に並ぶ照明というのがよくある組み合わせだが、それと似たものがあった。ただこちらのは扉ではなくて道であったけれど。
「なんだろうね」エリが言った。
「う~ん、ちょっと行ってみよっか」
耳と目に自分の持てる注意力を最大限振り分け慎重に進んでいき、やがて目的地に到着した。そしてろうそくに挟まれた通路の入口から奥を覗いてみた。
「ああ、なるほどね」リラはちょっと嫌なものを見てしまったというふうにこぼした。
そこにあったのは階段だった。手すりのはじまりと折り返しのところにろうそくがあって、そうしてたよりない光のなか物憂げに佇んでいた。リラは心の中で「困ったな」とつぶやいた。そしてトランシーバーの使い道がわかった。
「上もあるんだ」リラの背中から覗き込むようにしながらエリは言った。
「みたいね」
「どうする? 行ってみる?」
「……いや、まずは下を見ちゃお」
「そうだね」
とふたりの意見が一致したその時、左のほうから金属音が聞こえた。ふたりがいっせいに音の方を振り向くと、彼女たちの通ってきた道から光があふれていて、さきっちょがちょっとだけ見えた。
「ヤバイ! 見つかる! どうしよ」リラは小声で言った。
「あそこは? 扉がある」焦るリラにエリが指差しながら言った。
その指の先にリラが視線を向けると、たしかに扉があった。それを見てとってリラはもういちど顔を丁字路へと向けた。もう時間はなかった。エリの手をつかみ、駆け出した。




