エピソード3:かくれんぼ
たちまち静寂があたりにたちこめる。この部屋では風と雨と木々の音は聞こえてこない。リラとエリはしばらくのあいだ解放されたときのまま突っ立っていた。やがておもむろにエリのほうからリラに声をかけた。
「だいじょうぶ?」
その声でリラは我に返った。そしてため息をついて言った。
「あ、うん……だいじょうぶだけど、とんでもない目にあったね」
「そうだね」
「でも」しかし、打って変わって凛々しく顔を決めて言った。「今のでこれがなんのゲームかはわかった。ステルスゲームだね、これは」
「ステルス?」あいかわずゲームに疎いエリは聞きなれない言葉に首をかしげる。
「そう、ステルス――訳すと隠密。つまり見つかっちゃダメってこと。見つからずにアイテムを手に入れるかゴールまで行くかすればクリア」
「なるほど。じゃ、これは?」
エリはトランシーバーを見せながら聞いた。
「ああ」リラはそう言って自分のトランシーバーも見て考えはじめた。やがてすこし自信なさげに口を開いた。「たぶんだけどまとまって動いていると見つかりやすいから別々に行動しろってことなんだと思う。それに手分けして探したほうが早いだろうし」
「たしかに。じゃ、そうする?」
「う~ん」
リラは悩んだ。こうしてエリといられるのはこのゲームの間だけだろうから、なるべく長く一緒にいていろんなことがしたい。でも一介のゲーマーとしてせっかくのアイテムを使わずして遊ぶのももったいなく思う。どっちも捨てがたいとそこまで考えて、ひとつの単純な答えに行きついた。
「いや、とりあえずはいっしょに行こうよ」
なにも一度でクリアしなければいけないわけではないから(初見でクリアしてやりたいけど)リラはどっちの状況も楽しむことにした。
「わかった」
「んじゃ、さっそく行きますか!」
ふたりは入口へと向かい扉を開けた。ふたたび風雨がふたりの鼓膜を打ち、視界が暗く黒に染まる。月明かりも変わらない。だけど、今は何者かの潜む静けさも感じられる。
「どっちに行く?」エリが左右を見ながら聞いた。
「ちょっと確かめたいことがあるから右にしよ」リラはそう答えながら曲がり角まで行き、そこで身を隠した。
「なにしてるの?」エリが尋ねると、
「エリも隠れて」リラはひそひそと答えた。
不思議に思いながらエリも言う通りに、でもちょっと浮いて、身を隠すとリラが続けて小さな声で言った。
「さっきあっちのほうからオバケが出てきたじゃん?」
「うん」
「それでゲームだとこういうのはちゃんとクリアできるように通るルートが決まってるんだけど、ここもそうなのか確かめたいんだ」
「へぇ~」エリも声を潜めて言った。
そうしてふたりは頭だけ角から出して待ちはじめた。風が吹きすさび雨が降りしきる。リラの息づかいが聞こえる。四つの黒い瞳は同じく黒い空間を注視している。やがて、正確な時間はわからないがおそらく同じくらいのタイミングで、白黒の廊下に金属音が鳴り火の色をした切れ込みが入った。そしてカンテラを持ったオバケが姿を現した。
「ほらね!」リラがちょっと顔を上に向けて得意げに言った。
「うん。それで次はどうするの?」エリが尋ねると
「このまま見てて。次どうするのか確かめるから」
それでふたりは引き続きオバケの動向を観察した。カンテラを持って出てきたオバケは丁寧に扉を閉めると、左右を確認してカンテラの音とともに廊下の奥へと漂いだした。ある程度進むとどうやらそこは丁字路になっているようで、またカンテラを左右に振って確認すると右へ曲がった。オバケの姿が消え、カンテラの火も段々とほのかになっていき、やがて廊下はモノクロの世界に戻った。




