エピソード1:なかみ
リラがいつものごとく扉をすこし開けて頭を突っ込み中の様子を探ると、そこにはなんと例のマシュマロみたいなオバケが、小部屋の真ん中こちらに背を向けて佇んでいた。まさかの登場に驚いてリラは体を硬直させた。
「どうしたの?」
頭だけ入れている状態で動かないリラを不審に思ってエリが尋ねると、彼女は頭を引っ込めて視線だけはそちらに残したまま言った。
「いやさ、あれがいて」
「あれ?」
「オバケだよ、オバケ。あれがさ、一人だか一体だかわかんないけど、なかにいるんだよね。向こう見てたからまだ気づかれてはないとおもうけど」
「ほんと?」
「見てみる?」
そう言ってリラが扉の前から退いたのでエリはかわって頭をすきまに入れた。すると彼女の肩が跳ねた。それを見たリラは小さな声で尋ねた。
「どうしたん?」
頭を引っ込めて無表情でエリは答えた。
「こっち見てた」
「マジで……じゃ行くしかないか」
リラは観念して中に入ることにした。エリに代わってもらって扉を押して部屋へと進んだ。すると、中央にただようオバケが星の消えた宇宙のように真っ暗なふたつの穴を、エリと似たそれでいてエリ以上の無表情さでこちらに向けていた。ひとは死ぬとこうやって無くしていってまた埋めていくのかと思って、そしてふとこのオバケも自分と同じ世界でいつか生きていたひとなんだと思い出し、不思議な感じがした。
そのあとに続いてエリも入ってくるとオバケはふたりに近づいた。リラが身構えたのにたいしてエリは直立不動のまま。やがてあと一歩というところまで来るとオバケは止まって、唐突に思いも寄らぬ行動にでた。だらりと垂れ下げていた白いキノコのカサのような両手を、ギザギザとした口のなかにつっこんだのだ。そしてもぞもぞと自分の口? それとも体? のなかをまさぐって、ある物を取り出し、それをふたりに差し出した。自分の中をまさぐっていたさまを気持ち悪いものを見る目で眺めていたリラは、その差し出された道具に視線を移した。オバケの手にあるのはふたつのトランシーバーだった。長方形の本体の天辺左からアンテナが伸び、その隣には回してつける電源があり、正面上部には横長の画面といくつかのボタンがある。カバーにはそれぞれ色がついていて、黄色と白色とどうやら服の色に合わせているらしい。
差し出されたトランシーバーをまじまじとリラが見ていたら、オバケが「はやく取れ」と言わんばかりに両手をぐいぐい突き出してきたので、しかたなしに彼女は手に取った。肉体からではないとはいえ中から取り出したものだから変な液体でもついているんじゃと怪しんでいたが、その心配は必要なかった。リラが受け取るとエリも左手に持った。するとオバケは執事かなんぞかのように脇によって、左手をお腹に当て右手で後方の両開きの扉を指し、うやうやしく礼をした。
道を開けられたふたりは視線を交わしたあと、頭を下げているオバケの前を通り、木製の意匠に凝った両開きの扉の前まで歩いた。そこで気になってリラが後ろを振り返ると、オバケはまだ姿勢を崩さずにいた。しかし、その時オバケも体を捻って様子をうかがったのでふたりの視線がぶつかった。ふたりして「マズイ」と思ったのか慌てて体をもとに戻すと、リラはため息をついて言った。
「じゃ……いこっか」
「うん」
それにエリがうなずくと、リラは右の扉をエリは左の扉を、いっせいに押した。




