エピソード7:ステージクリア?
「やった!」嬉しくってリラは声を上げた。「エリ、そのまま上であたしも登れるようなやつないか探してくんない?」
「りょうかい」
軽い返事をして頼まれごとをしにエリは上の部屋へと入っていった。が、すぐに穴から顔をひょっこりのぞかせて言った。
「はしごがあった」
「ほんと? じゃあ、それを下ろせる?」
「うん、危ないからちょっとさがってて」
注意通りにリラがその場から離れると、エリはいったん顔を引っ込めてちょっとするとまた見せた。
「じゃ、下ろすよ」
「うん」
リラの返事を聞きエリはさっそく梯子を下ろしにかかった。まず黒いゴムの滑り止めがついた二本足が出てきたかと思うと、スーッと音もなく落ちてきて着地する直前ピタッと止まって、やさしく設置された。熟練の職人のような妙に慣れた梯子裁きに驚きつつもリラは踏ざんをつかみ片足を乗せぐらつきがないか確かめ、はしごを上りはじめた。
上の部屋に到着しリラはサッと部屋を見回した。部屋は薄暗く、一言で言えば寝室だった。天蓋の付いた豪勢なベッド、古風な三面鏡の化粧台に洋服棚。どこか遠い国の王族や貴族の寝室と聞いて思い浮かべる、そんな場所だった。リラは一目見ただけで部屋の優雅な装いに魅了され、ぼうっと化粧台へと歩いていき椅子に座って身だしなみを整えはじめ、それが済むと今度はベッドに向かい天蓋をはらりとめくり感触をたしかめるとそろそろと隠れていった。
「はぁ」そして大きくふかふかなベッドの上、両手と両足をのびのびと広げて、深々と息をついた。
これでもかとリラックスしている彼女のもとへ、エリが天蓋をペロッとめくり顔をのぞかせた。すると、
「エリもどう? すっごく気持ちいいよ」とろんととろけた目と気の抜けた声でリラが誘った。
「おじゃまします」
「どうぞ」
エリが入ってきたのでリラはすこし転がりスペースを作った。そこへエリは寝ころんだ。二人は仰向けに上に広がる落ち着いた濃藍をながめている。ただリラは手からも足からも顔の筋肉からも力が抜けているのに、エリのほうは緊張しているのかなんだか表情が若干かたい。それによく見てみると指をもぞもぞとさせている。
「どう?」とろけきっているリラはそんな彼女の様子もとんと気づかず、のんきに感想をたずねる。
「うん、やらかいね」
「でしょ。こんなベッドはじめて」
「でもいいの? こんなことしてて」
「ちょっとぐらいならいいでしょ。せっかくだし」
――――やっぱりちょっとぐらいにはならなかった。自分の何倍もの大きさの箱をいくつも押して、体力のかぎり追いかけまわって、見た目には現れていなかったが疲れていたのだろう、いつのまにか寝息をたてていた。となりで無防備にぐっすり眠り込んでいる彼女にエリはほほえむ。両親以外でこういうふうに誰かとベッドをいっしょにするのは初めてだった。それがリラでほんとうによかったとエリは思う。彼女のおだやかな寝顔にはじめは感じていた緊張もほどけ、エリもまぶたを落とし心地よい気分に身をゆだねた。…………。
「――て。エリ、起きて」
誰かの声でエリは目を覚ました。女の子が目に入ってきた。最初はそれがだれだかわからなかった。しかし、周りの景色も見えるようになって思い出した。
「エリはいがいとお寝坊さんなんだね」
そう言ってリラは笑った。その笑顔にエリはお母さんを重ねて見た。
「ごめん」
「いいよいいよ」
ふたりは起き上がってベッドから降りた。
「う~ん、よく寝た」リラは思いっきりのびをした。
「それじゃここも始めよ」エリがそう言うと、
「それなんだけどさ」とリラがポケットを探りながら言った。「起きたらこれが置いてあったんだよね」そして一枚の紙をエリに差し出した。
エリがそれを受け取り見てみると、「お疲れのようなので次に進んでください」と書かれていた。
「だってさ」リラは頭の後ろで手を組んでつまらなさそうに言い放った。
「どうする?」
「どうするもそう書いてあるなら次に行くしかないんじゃない」
リラの意見に決まり、エリが紙をベッドに置くと、ふたりは反対側にある扉へと向かった。そしてリラがノブを掴んで回すと、かんたんに扉は開いた。その先には前と同じみすぼらしい廊下が続いていた。こうしてステージ2は不完全燃焼に終わってしまった。




