エピソード1:脱出のための脱出
「ここがステージ2かぁ」新たな扉を前にしてリラはポツリとこぼした。
「ステージ2?」その呟きが聞こえたエリはそう尋ねた。
「そうそう。さっきの箱を押して進んでいくのなんて典型的なゲームだしね。だからそれがステージ1として今からステージ2ってわけ」
「なるほど」
それから二人はすこし相談をして、今度は大丈夫だろうということでエリに様子を見てもらわずに、中に入ることにした。前とおなじようにリラがノブを握ってゆっくりと扉を開ける。隙間に頭を突っ込む。そして足を踏み入れた。
「おおー」
リラは感嘆の声をもらし、その背後から続いてエリも中に入った。何らかの花をつけたツルが等間隔に描かれた深い紺色の壁、赤茶色の絨毯、正面と右の壁沿いにズラッと並ぶ欠けのない本棚、左側に点々と立っているタンスや飾り棚などの収納、大きな木製の机、それを囲む四脚の椅子、そして壁の四隅にランプが一つずつ。ステージ2は打って変わって本当にお城やお屋敷にあるような高級感あふれる部屋が舞台だった。
目をキラキラと輝かせて、あっちこっちと見ながら、リラは部屋のなかを歩き始めた。たいしてエリは部屋には目もくれず、リラの後ろについていきその様子を眺めた。すると、リラが机のそばで足を止めて振り返った。
「ねえ、みてよ。足が丸くなってる」
彼女の指差す先を見てみると、確かに外へと丸まっている机の脚があった。
「こんなの金持ちじゃん」
「そう?」
「そうだよ。だってこんなくるっとしてるのなんてふつう見ないもん」
「たしかに」
「でしょ」
次にリラは本棚のまえで足を止め、空きのない本を眺めて、適当なものをひとつ手に取った。厚さは百科事典や広辞苑ほどではないがそこそこある。茶色の生地に、金色の線が真ん中と上のほうに一本ずつはしっていて、表と背中にタイトルと思わしき文字が刻まれている。シンプルな本だった。前小口の適当なところに親指を当てひらいた。
「げ、やっぱり英語じゃん」
その声を聞いてエリはリラの肩越しに覗いてみた。真っ白なページのうえにアルファベットがいくつものグループにわかれ、ちょこまかとならび、そして列をつくっていた。
「英語読めないの?」
「まったく……ってほどじゃないけどさ。見た目で思われがちだけど、生まれも育ちも日本だからね」
「お母さんとお父さんは話さないの?」
「うん、『こっちにいすぎてわすれちゃったよ』だって」リラはため息混じりに言った。
それから二人は左壁沿いにある収納を一通り覗いて、入口にもどってきた。
「なにもなかったね」とエリが言った。
「でも、なにをしたらいいのかはだいたいわかったけどね」リラは胸を張って得意げに返した。「エリはわかんない? この部屋におかしなとこがあるの」
「ん?」
リラにそう問われてエリはあらためて部屋を見渡した。本棚に机、椅子、収納、ランプ、そして床に天井。
「ある?」わからなくてエリはリラに聞いた。
「あるよ! ヒントはエリは平気かもしんないけど、このままじゃあたしはかなり困るねってこと」
ヒントをもらい、今度は頭のなかでそれを何度も繰り返しながら、じっくりとひとつひとつ見ていった。そして本棚から収納へ視線を移したところで、エリは閃いた。
「もしかしたらだけど」すこし自信なさげにエリは口を開いた。「扉がない?」
すると、リラは驚いたように目を見開いた。しかし、それきり動かなくなってしまった。緊迫した沈黙がふたりのあいだに訪れる。エリの心臓がちょっと駆け足になった。それから若干長めの沈黙があったのち、
「アタリ!」とリラは弾けた。「エリは壁抜けできるからいいかもしんないけど、あたしはこのままじゃ帰れないからね」
「たしかに。でも、どうしたらいいの?」
答えはわかったものの何をしたらいいのかは導けなかったので、エリはリラに尋ねた。
「さっき言ったけど、もしゲームをマネて作ってるならこれは脱出ゲームだね」
「脱出ゲーム?」
「そう! まずは部屋のなかをくまなく探して『謎』を探すの。それでその謎を解いてアイテムを手に入れたり、次の謎を見つけたりして、最終的に脱出ゲームするっていうやつ。で、たぶん今回は出口を見つけたらいいんだと思うんだよね」
「そういうことなら、わたしが見てこよっか?」
「え?」リラはエリの発言の意味がわからず聞き返した。
「ほら、わたしの壁抜けで部屋を見つけちゃえばいいんじゃないかなって」
「ああ」意味を理解しリラは腕組をして少し考えた。「とりあえずはいいかな。どうしようもなくなったらおねがいするよ」
「わかった」




