エピソード3:エリの事情
「それで、さっきの続きは?」さっそくリラはエリに話の続きをうながした。
「うん。それで時間についてなんだけど……」エリはそう言って話し始めた。「実は死んだ人にはあの世でどれくらい時間が経っているのかわからなくて、生まれかわる時に神様に聞いてはじめてわかるんだって」
「神様!? 神様ってほんとにいるの!? ……って幽霊やオバケがいるならいても不思議じゃないよね」
リラは最初は神様という言葉に驚いたが、すぐに自分で納得した。そして別に気になることがあったのでエリにたずねた。
「それより生まれかわるって言ったけど、そんなことほんとにあるの?」
「ほんとうかどうかはわたしにもわかんない。ただ長い長い時間をかけて、生きていたころの記憶を洗い流していって、さっきのオバケよりももっともっと丸く、ほのかに光る玉になると生まれかわれるっていう話」
「へぇー、じゃさっきのオバケはもうすこしなんだ」
「そうなるね。あとこの世の時間なら神様に聞かなくてもわかるんだよ。といっても同じようなやり方だけど」
「あ!」同じような方法というヒントをもとにリラはすぐさまその方法がわかり、声をあげた。「他のひとに聞くんでしょ。自分よりあとに来たひとに聞けば、覚えてればだけど、自分のと計算できるから。でも、いつ死んだの? なんて聞けるもんなの?」
「そのへんはさすがに聞く人を選ぶよ。とくに若いひとには聞きづらいみたいね。あとは見た感じで『ああ、このひとには聞いちゃダメだな』とか判断するんだって」
「なるほどね」
とリラが感心していうと、なぜだか妙な沈黙が生まれた。しかしリラにはその原因の見当がついていた。ここまでの話からして次は、エリに『エリはいつ死んじゃったの?』とか『覚えてるの?』とか聞いて、どれくらい時間が経っているのか確かめる流れになっている(気がする)からだ。いちおう最近というのは聞けたけれど、具体的な日時にまで踏み込むのは勇気がいるというか遠慮を捨てないといけない。リラは悩んだ。そしてエリにチラッと視線を向けた。ところが、リラがそうやって悩んでいるとなりで、当の本人は聞いてほしげな視線を何度も送っているのだ。それがよけいにリラをもんもんとさせた。沈黙が破られぬまま少し歩いたところで、とうとうリラは口を開いた。
「ねえ、エリ」
「なに?」待ってましたと言わんばかりにエリは食い気味で返事をした。
「エリって、そのいつ死んじゃったのか覚えてるの?」予想以上の食いつきに戸惑いつつ、リラは思い切って聞いた。
「うん、何日かまではちょっと自信ないけど。二十一年の十月だね」
「え? 二十一年って二千年の?」
「うん」
「え!?」予想外すぎる答えにリラは無意識に大きな声を上げていた。「ほんとに最近……というかほぼ今じゃん!?」
「そうなの?」
「そうだよ! だってあたしが寝たのは、たしか二十一年の十月の二十三日だから……」
「じゃほんとに今さっきって感じだね」
「ええ……」
ほんらいなら悲しむべきところのはずが、まるで他人事のようにエリがさっぱりしているので、リラはただただ驚くほかなかった。
「じゃ二十一年で十二ってことは」
「うん、平成二十一年生まれ」
「ほんとに同い年じゃん。もしかしたらすごい昔のひとと話しているのかもって思ってたんだけど」リラはちょっとつついてみた。
「ふふ、ごめんね」
が、エリはそれをさらっと流した。リラはため息をついた。どこまでも自分の死に軽いエリに悲しみも驚きも越えて、ひたすら呆れるしかなかった。それからふたりはちょっとした会話をかわして、やがて次の扉のまえに着いた。




