エピソード2:あの世の事情
しかし、オバケが立ち去ってもなお、二人はその場に突っ立っていた。もう十数秒。やっとリラは我に返って、エリのほうへ顔を向けおそるおそる言った。
「ねえ、いまのって……」
「オバケだね」エリはあっけらかんとして言った。
「そうだよね……っていうか、エリはなんとも思わなかったの!? あんなわざとらしいオバケを見てさ!?」
「うん、知ってたから」
「……え? 知ってたってどういうこと?」明かされた事実に雷を打たれ一瞬かたまったあと、リラは信じられないといった目でエリに尋ねた。
「わたしもオバケだから、ああいうのもいるってことはね。でも、わたしも初めて見たときはおったまげたけど」
「……ああ、知ってるってそういうこと」
自分のはやとちりだと知ってリラは頭と肩をガックリと落とした。エリは彼女の反応を不思議に思って尋ねた。
「どうしたの?」
「あ、いや……知ってたっていうから、てっきりグルなのかと思って」顔を上げてそう答えたあと、リラはため息をこぼした。
「あー」
「まあ、そうじゃないならいいんだけどね。それより、あれってなんなの?」
「なんなのって……?」
エリはリラの質問の意味がわからなかったようで首をかしげて聞き返した。
「えーと、なんていえばいいか……ああいうのってハロウィンとかで使われるキャラクターじゃん。エリなら人の幽霊ってことでわかるけどさ……」
問い返されたリラは、腕を組んだり両手をボウルを持つときのような形にしたりと、落ち着かない様子で言葉にした。
「そういうことなら、わたしも聞いた話でほんとかどうかわかんないけど……」そう前置きをしてエリは話しはじめた。「ああいうマシュマロみたいなもう形のないのは、死んでからかなり時間の経ったオバケなんだって」
「時間?」
「そう。逆にわたしみたいに生きていた時の姿がハッキリと残っているのは、あまり時間が経っていないからか、時間が経っていても未練が強いからなんだって」
「へぇー」リラは自分の知らない世界の事情に深く感心して、何度もうなずきながら声を漏らしたあと、言いづらそうにたずねた。「じゃエリは……その、最近死んじゃったってこと?」
「うーん、そのへんはよくわかんないんだよね」しかし、エリは相変わらず気にした様子もなく答えた。
「よくわかんないって?」
「その、この世とあの世で時間の流れ? が違うとかで、こっちで百年経っていてもあっちでは一年だけだったり、反対にあっちで百年こっちでは一年だったりすることがあってちゃんとした時間がわかりにくいみたい。そもそも時計もないし」
「そうなんだ」
今の話が本当なら、こうして出会って話しているエリ――自分ともクラスの他の子ともなんら変わったところがない普通の女の子――は、何十年も昔の人なのかもしれない。そう考えるとリラは不思議で不思議でしょうがなかった。しかし、ふと今の話におかしな点があることにリラは気がついた。
「……ん? でもさ、時計がないならなんで百年だったり一年だったりってわかるわけ?」
「それなんだけど……ここで話すのもなんだし、歩きながらにしない?」
その提案にリラは一瞬考えて
「そうだね。じゃ行きながら、はなし聞かせてよ」
「うん」
そうして二人はおもわぬ第三者――キャラクターみたいなオバケの出現に止まっていた歩みを再開した。




