エピソード4:扉の先へ
しかし、リラは無反応だった。そのためしばらくの間そのまま見つめ合って、不思議に思ったエリが手を離し上がっていくと、リラはそれには反応しておなじように顔を上げてついていった。そして今度は真正面で目と目を合わせた。それでも丸い目のまんま石像のようにかたまったままのリラに、エリは気まずそうに声をかけた。
「……あの」
すると、
「――――あ、ああ、エリ……帰ってきたんだ。てっきりドアから戻ってくるもんだと。幽霊だもんね、そりゃ」
心ここにあらずといった様子でリラは返事をした。その姿に心苦しくなったエリは小さな声をもらした。
「ごめん」
するとリラはうつむき拳を握ってプルプルと震えはじめ
「――――もう! ほんと、そうだよ!!」そして爆発した。「死ぬほどビックリしたんだから! 帰ってこないと思ったら、いきなり足をつかまれてさ。しかも、ちょっと……あれ、ひんやりしてるからよけいにだよ。もう、マジでビックリしたんだから」
「……ごめん」
「あ、いや、ぜんぜん大丈夫だよ。ただちょっと、ちょっとだけいつもより驚いただけって話だから」
自分の爆風にさらされたエリが叱られたこどもみたいにうつむき服をギュッとつかんで落ち込んでしまったので、リラはやりすぎたと思って慌てて言った。ところがかえって気を遣わせてしまったとエリはさらに肩を落とした。そんな彼女を見てリラはため息をそっとついて、ギュッと力が入っている両手を取ってやさしく微笑んだ。
「ほらほら、むこうがわ見てきたんでしょ? なにかあった?」
「……ううん」エリは首を振りながら答えた。
「それなら次に行ってみよ! いまのことならほんとに全然気にしてないから。むしろどんどんやってほしいぐらいだよ」
そう楽しげに言ったリラだが、エリには意味が読み取れなかったらしく首をかしげた。
「だってさ、エリは幽霊なんでしょ? なら壁の通り抜けるのも宙に浮かべるのもそうだけど、本物の幽霊としかできないようなこともっともっと、それこそできることはぜんぶやりつくしたいもん。せっかく会えたんだから!」
満開の花を咲かせて、最後にリラは言った。
「だからごめんね。あたしもちょっと言い過ぎたよ」
「ううん、そんなことない」
「じゃ、おたがいさまってことで。次に行こ?」
「うん」
エリが元気よくうなずき、そうして二人のあいだにあった気まずい空気はどこかへ飛んでいって楽し気な雰囲気に包まれた。そして二人は扉へと向き直り、リラがノブをつかんで「開けるよ」とエリに言うと、「いいよ」と彼女は返した。それを聞いてリラは視線を扉に戻しゆっくりとノブを回した。




