傲慢
「私の幸せは、たくさんの方を踏み台にして成り立っていたのですね」
「それは違うと思います」
クラリスの言葉を間髪入れず否定したのはランドルフ王子だった。
アンネリーゼは意外に感じてランドルフ王子をじっと見つめる。
ランドルフ王子は強い口調で祖母をたしなめた自身に驚いていた。
白い頬を赤く染め、小さく咳払いするランドルフ王子。
「今のお祖母様の言葉は傲慢過ぎると、私は思います」
ランドルフ王子はゆっくり、柔らかく祖母に伝える。クラリスは美しい孫の面を改めて見て驚く。いつの間にか、ランドルフ王子は大人になっていた。
「お祖母様を慕って幸せになってほしいと動いたと思います。手段を間違えた人もいましたが」
ちらりと上げたランドルフ王子の視線はジャンヌに向けられた。ジャンヌは胸に鈍い痛みを覚えた。しかしランドルフ王子の言う通りだから、甘んじて受け入れるしかない。
シャルルの面影の青年の青い正義は、ジャンヌも嫌いではない。それを突き通すところを見てみたいとすら思った。
「それは踏み台になるためじゃない。お祖母様の笑顔を見たかったからです。お祖母様が笑ってくれることが、周りの方の幸せだったから。皆、お祖母様が大好きなんです」
ランドルフの言葉は、クラリスの曇っていた視界を急激にクリアにした。
「ランドルフ……」
「生意気を申し上げました!」
真っ赤になって取り繕うランドルフ王子を見て、アンネリーゼがかすかに微笑んだようにランドルフ王子には見えた。それでまたランドルフ王子は取り乱す。アンネリーゼが微笑みかけてくれていると感じたからだ。
(ランドルフ様はどんな哲学書をお読みになったのか、教えていただかなくては)
アンネリーゼはランドルフ王子の思考のモトを我が物にしようと悪い笑みを浮かべていた。犯人を説得するのに使えそうな文言だと思った。
微笑んだと思ったのはランドルフ王子の脳が勝手に補正したことだ。
エリヤがこの場にいれば、何か企んでいる顔だと判断しただろう。
ジャンヌもランドルフ王子の言葉に動けなくなっていた。
クラリスに笑っていてほしかっただけなのに。どうしてそれを一番に考えられなかったのだろうと後悔する。クラリスが笑って、ジャンヌも笑っていられた方法が、どこかにあったかもしれない。
あの時はあの行動が最善手だと考えていた。そしてみんな傷つけた。
もしもランドルフ王子に出会えていたら、違ったのだろうか。
今さら何を言っても後の祭りだが。
「ジャンヌ様」
アンネリーゼがジャンヌへそっとハンカチを差し出す。
ジャンヌの目から、大粒の涙がとめどなくあふれていた。




