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 クラリスとジャンヌの再会の日の前の夜、シュツルム家にアイゲンラウホ辺境伯から荷物が届いた。ランドルフ王子からの書簡を見て大急ぎで送ったのだろう。


 中には手紙とドレスや装飾品が入っていた。デコルテは繊細なレースでできているタイトな黒のロングドレスは、背の高いジャンヌだから着こなせる代物だ。


 クラリスと会う時にジャンヌが恥ずかしくないようにと、準備してくれたようだ。


 アイゲンラウホ辺境伯からの手紙を読みながら、ジャンヌは照れくさそうに笑った。


「手持ちの中で、私に一番似合うと思っているドレスですって」


 辺境伯のジャンヌへの愛情が伝わってくる。


「バカねぇ……。良いことじゃないのに」


 親友との再会を良いものにできなくしてしまった後悔が、ジャンヌの淋しげな双眸ににじむ。


「アンネリーゼさん、本当にありがとう。あなたが来てくれてから、何だか急に目の前が明るく開けたわ。この十年はこの人の優しさにこんなに包まれていたのに、気付けなかった」


 ジャンヌは静かに涙をこぼす。


「違うわね。気付こうとしなかった」


 アイゲンラウホ辺境伯からの手紙を、ジャンヌはとても大切な壊れ物を扱うようにそっと抱きしめた。


(お父様の仰る通り、ジャンヌ様のいろいろなことが、少しずつ変わってきていたのでしょうね)


 アンネリーゼがジャンヌを訪ねたのは大きなきっかけになったかもしれない。しかし昨夜、父がアンネリーゼだけに話してくれた。


 西方の貴族、特にアイゲンラウホ辺境伯とその一族は王族への忠誠に厚い。武術に秀でた者の多いアイゲンラウホ辺境伯の周辺は諜報員や工作員などもいるので、ジャンヌが何らかの訳がある令嬢であることを知っていたはずだと言う。


 もちろん、アンネリーゼが暴いた事情はつかんでいないと思われる。


 還暦近くで婚姻歴がないというだけでも、ロロン王国では変わり者と思われることが多い。ましてや公爵家の一員だ。


 それを知っていて、それでもアイゲンラウホ辺境伯はジャンヌと晩年を共に過ごしたいと感じたのだ。それは昔や伝統に固執する頭の固い老人では踏み切れないと父は言った。


 アイゲンラウホ辺境伯は妻に先立たれて寂しかったのかもしれない。辺境伯の三人の子どもももう立派な大人だ。遺産などの問題で反対されているかもしれない。それでも残りの人生を共に歩む選択をした。


 長きに渡る放浪も、きっと全てジャンヌの贖罪に必要な時間だったのだろう。


 あとは、クラリスがどんな裁きを下すのか。


 アイゲンラウホ辺境伯の荷物の様子を見るに、ランドルフ王子はジャンヌがクラリスと会う、ぐらいのことしか伝えていない。


 きっとクラリスにもそうだと、アンネリーゼは思っている。


 それが吉と出るか、凶と出るか。


 アンネリーゼには祈ることしかできなかった。

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