面影
「手紙……」
アンネリーゼの提案に、ジャンヌはつぶやいた。それから黙りこくってしまう。
(これは失敗でしたわね……)
法律的に罰を受けることは難しい。クラリスに会うのは怖い。それならと考えたことだった。
ランドルフ王子からクラリスに、ジャンヌの書いた手紙を渡してもらうのは良い手だと思ったのだが。
(手紙を書けるのならもうお書きになってますわよね……)
アンネリーゼはあごの辺りに触りながら次の手のために頭をひねる。
「失礼」
待っていてほしいとお願いしたのに、ランドルフ王子が応接間に乱入してきた。王子はアンネリーゼと会えた嬉しさで一瞬大人しくしていたが、結局自らの心に従った。
「ランドルフ様」
アンネリーゼは素早くランドルフ王子の元へ行く。
「お待ちくださいと申し上げましたのに……」
「う、すまない」
たしなめられたランドルフ王子はバツの悪そうな顔をする。
「しかし、やはり直接話をしなければと」
ジャンヌの視線はランドルフ王子に吸い寄せられる。
「シャルル……」
麗しい老女は無意識のうちに幼馴染みの名前をつぶやいていた。それほど美しい王子に若き日の前国王の面影を感じた。
つかつかとランドルフ王子が寄ってきた。ジャンヌは我に返る。シャルルに似ていると思ったが、クラリスにも似ている。
ジャンヌは懐かしさに胸が締め付けられた。
「あなたがお祖母様の枕元に小瓶を置いた犯人ですか」
「……左様でございます」
すっと立ち上がったジャンヌは頭を垂れた。
「お祖母様はアンネリーゼさんにあなたのことを何ひとつ伝えませんでした。犯人ではないと信じているからなのか、私にはわかりません。ですが、あなたが本当に罪を償う気持ちがあるのなら、祖母に直接会って謝るべきだと、私は思います」
冷静に諭すランドルフ王子を、ジャンヌはじっと見つめていた。
ランドルフ王子が全面的に正しいとアンネリーゼも思う。
しかし長い間ずっと心が三角座りで動けず、ようやく前に進み始めたばかりのジャンヌには難しい行動に思えた。
できるならば、ランドルフ王子の言うとおりにした方が良いのだが。
「真に、仰言る通りでございます」
頭を下げたまま、ジャンヌはぎゅっと目を閉じる。深く息を吸いながら姿勢を正した。ランドルフ王子と向かい合う。
シャルルに似ているが、ランドルフ王子の方が正義感の強い印象を受けた。彼の強さにジャンヌの心は呼応する。
「こんなお願いをするのはおこがましいですが、クラリス様と会う機会をお作りいただけますか?」
ジャンヌの決意に、皆の視線がジャンヌに集中する。
翳りの消えた、凛とした上品な老婦人がそこにいた。




