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身の上話

「あの小瓶を毒かもしれないと思いながらクラリス様の枕元にそっと置いたのは、賭けだったのでしょう。ジャンヌ様の罪を知らないままクラリス様が亡くなれば、ふたりは永遠に親友でいられる。クラリス様がシャルル様のものではなく、ジャンヌ様のものになる」

「そこまで気づいていたの」


 ジャンヌは淋しげに、しかしどこか嬉しげに口元を綻ばせた。


「シャルル以外の人に、クラリスへの気持ちを見透かされたのは初めてよ。さすがね。クラリスの見込んだ探偵さん」


(最近、私は本当に探偵なのか、これでは警察ではないかと自問することが多くなっていましたが、探偵さんと呼んでいただけた!)


 アンネリーゼは嬉しくなって、これだけでジャンヌを良い人判定したくなる。


 かなり前とは言え、殺人未遂をしているのだからとても良い人とは言えないのだが。


 一見サバサバしているが、実はとても女性的なところがあるのだろう。そのドロドロしたところは他人に見せないようにしている。


「おばあちゃんの身の上話、聞いてくださるかしら?」

「もちろんです」


 アンネリーゼは姿勢を正した。


「自分でもね、驚いたのよ」


 ジャンヌは自嘲しているようだった。とび色の瞳はここではないどこかを映している。


「あの頃は醜い感情や卑怯な自分が次々にあふれ出して、どうすれば良いのかわからなかったの。間接的に人をひとり殺して、クラリスのためにやったのだからって、あの小瓶をクラリスに委ねてしまった。あの子は何も悪くないのに。選んだのは私なのにね」


 うつむいたジャンヌはキュッと両手を握った。


「どんどん顔を会わせづらくなって、クラリスにもシャルルにも何も言わないで旅に出たの。戻るつもりのない旅に。だけど私は意外としぶとくてね。命を脅かされるようなアクシデントにも遭わなかったの」


 ジャンヌは小さく肩をすくめる。


「それでプラプラしてるうちに気がついたらもうおばあちゃんと言われる年齢になっててね。家は甥っ子が継いで、行き場がもうないから今度こそ野垂れ死ぬかしらと思っていたら、あの人が……アイゲンラウホ辺境伯が結婚してほしいなんて言い出すから驚いたわ。それで嬉しかったから、つい結婚してしまったの。余生はふたりでゆっくり過ごすのも素敵だなんて夢を見たの。そんな資格はないんだって、改めて思い知ったわ」


 左の目から涙が一筋流れる。


 ジャンヌは長い間、ずっとひとりで自らの罪に苦しんできた。それが罰だったのかもしれない。


 しかしアンネリーゼも、ジャンヌを同情で特別扱いすることもできない。今それをしてしまえば、探偵として失格だ。


「どうなさるおつもりですか?」

「出頭するわ」


 気高さを失わないために、ジャンヌは前を向いた。


「王都までご一緒させてください」


 アンネリーゼは見守る義務があると思ったのでそう申し出た。そんなことは起こらないと信じたいが、ジャンヌが自ら生命を絶つようなことがあってはならない。可能性の芽はつぶしておきたかった。


「ありがとう」


 ジャンヌは久しぶりにちゃんと笑えたような気がした。

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