西方
アンネリーゼは額を押さえてエリヤを見上げる。
おでこにキスをされたことはわかる。エリヤの行動の理由がわからない。
だけどアンネリーゼの全身はみるみる熱くなって赤くなる。
(この感情は何⁉)
恥ずかしいのか、嬉しいのか、照れているのか、アンネリーゼ自身、良くわからない衝動が駆け巡る。
混乱しているアンネリーゼを見て、エリヤは溜飲を下げた。
意識的に作っているポーカーフェイスを崩せば、こんなに愛らしい女の子だ。
意地悪な微笑を美しい面にひらめかせるエリヤに、アンネリーゼはますますわけがわからなくなる。何がわからないのかもわからない。
「どういうことですの⁉」
雄叫びを上げるアンネリーゼを落ち着かせようとエリヤはそっと抱きしめた。
「ですから、お嬢様はもう少し男心を学ばれるのがよろしいと思います」
くすくす笑うエリヤはすっかりいつものエリヤで、アンネリーゼはなぜだか悔しくなる。
(私だって、メンタルのコントロールはお手の物ですわ! いつもたくさんネコをかぶっていますもの)
目を閉じて、できるだけ深く呼吸をする。それを数回繰り返して、いつもの無機質なアンネリーゼに戻った。
(せっかくの妙案を全て忘れてしまうところでした)
こちらの世界にはないもの。それをまた魔法で生み出すために思い出す。
ポリグラフ検査、いわゆるウソ発見器をジャンヌに試そうとアンネリーゼは考えていた。
そのための装置を、できるだけ小さくして魔法で作った。
問題はジャンヌがアンネリーゼの言うことをすんなり聞いてくれるかだ。
「お嬢様、これは?」
エリヤは見たことのない道具が客車の中に現れる。
「脳波や心拍数、皮膚電気活動などの生理現象でその人の記憶を読み取る機械です。これを装着して、質問には全ていいえで答えていただきます」
ポリグラフ検査自体完璧なものではないし、まだ誰にも使ったことのない道具だ。どれぐらい確実なのかわからないが、その辺りは魔法でどうにかなっているとアンネリーゼは自分を信じる。
今夜は宿に泊まり、明日の昼頃、アイゲンラウホ辺境伯の屋敷へ訪問する。
宿はランドルフ王子が手配してくれていた。とても立派な宿だ。
宿には先にクリストハルトが到着していた。
「王都から西へ行くほど妙な気配が漂うとは思っていたけれど、祠から漏れ出る何かなのかな」
食事の時、クリストハルトはとても楽しげにそう話した。
「確かに彼の波長と似ているね」
どこか恍惚としているクリストハルトが、アンネリーゼにはいつもと別人に見えた。
「先生、お疲れですか?」
「僕? 元気だよ。辺境伯のところへ行かなくて良いなら、祠を見に行きたいぐらいね」
クリストハルトの笑顔がとても危険なものに感じられた。




