面会 2
「いつの間にかと言うのはどういうことかな?」
「いつの間にかは、いつの間にか、だ」
カミーユの言動はどうにも無礼な印象を受ける。それがかんに障る人が多かったのだろう。だからどこへ行っても人間関係が上手くいかなかった。
クリストハルトと会話する姿を見ていて、アンネリーゼはそう感じた。
(気がついたらそこにいた、と言うのが一番しっくりくる雰囲気ですわね)
アンネリーゼたちが一度だけ遭遇したときも、彼はどこからともなく現れた。
「そうかい。彼と会うために必要なことがあれば教えてもらえるかな?」
「よろしくお願いいたします」
アンネリーゼがおしとやかに頭を下げると、カミーユは得心したように唇の端に笑みを浮かべた。
(この手のタイプは、こちらが下手に出れば軽やかに踊ってくださいます)
頭を下げて情報が手に入るなら、アンネリーゼにとっては安いものだ。
アンネリーゼの読み通り、カミーユの口は滑らかに動き始めた。
「そんなものがあるならこちらが教えてもらいたいぐらいだ。でも会えるときはだいたい、僕が切羽詰まっていた。苦しくて悲しくて、どうして僕だけがこんな思いをさせられるんだって、誰か助けてって思うとあの人は来てくれた」
カミーユは饒舌に、どこか得意気に語る。
「あの人は僕だけを助けるはずだったのに!」
先日のことを思い出して不機嫌になったカミーユは、椅子に縛り付けられているのに癇癪を起こして暴れ始める。あまりの勢いに、椅子ごと倒れてしまいそうだ。
「そんなに暴れると危険ですよ」
アンネリーゼが静かに伝えると、カミーユは勝ち誇ったような不気味な笑顔を見せた。
「クールビューティーも悪くないなぁ」
カミーユの舐めるような視線だけで、アンネリーゼは嫌悪感を覚えてゾワゾワした。しかしそれを見せることはない。ツンと澄まして座っている。
エリヤはアンネリーゼが嫌がっていることに即座に気付き、カミーユを殴り飛ばしたい衝動に駆られる。分厚い仕切りに阻まれているのがもどかしい。
ぐっと拳を握ってカミーユをにらむのが、今できる精一杯だった。
「そっちの美人も、ちょっと背が高すぎるけど、ヤキモチ妬かなくて良いよ?」
女装姿のエリヤを、カミーユは女性だと信じ切っている。なぜかエリヤのカミーユへの怒りを、アンネリーゼにヤキモチを妬いていると理解していた。振りまかれるカミーユの謎の自信に、エリヤはゾッとする。
(目が合っただけで女性はみんな自分のことが好きだと思えるなんて、おめでたい方ですね。エリヤは男ですけど)
カミーユに気づかれないよう、アンネリーゼはこっそり小さくため息をつく。
「周りに魔法陣があったとか、何か気づかなかったかい?」
クリストハルトがカミーユから興味を失っている。
おそらく、これ以上話しても何も出てこないと判断した。
「何もなかった!」
クリストハルトのいら立ちに呼応するように、カミーユは自分が正しいと主張する。
「……わかった。どうもありがとう」
すっと立ち上がったクリストハルトはすたすたと出口へ向かう。
「どこへ行くつもりだ!」
「もう用はないから帰る」
ちらりと一瞥すらなく、クリストハルトは面会室を出ていく。アンネリーゼとエリヤも後に続いた。
取り残されたカミーユは呆然とその様子を見ていた。
パタンとドアが閉まる。控えていた看守たちにすぐさま独房へ戻された。
外へ出たクリストハルトは大げさに大きなため息をついて首を左右に振る。
「こっちは真剣に聞いてるのに、あの態度はない」
大抵のことはおもしろがる天才魔法使いが、珍しくお冠の様子だ。
「あの痛々しい感性がどうやって培われたのか、気にはなるけどね。知りたくはないよ」
クリストハルトは辟易した様子で呟いた。




