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価値観

「ジャンヌ様がもし大伯父のところにいると仮定しますと、少々厄介かもしれません」


 眠る前にアンネリーゼの黒髪の手入れをしていたエリヤが呟いた。


「どうしてですか?」


 エリヤに背を向けて座っていたアンネリーゼが振り向く。エリヤはくしを持つ手を止めた。


「ブラントがランドルフ様の護衛をしているからです」

「なぜそれが厄介なのですか? むしろ誇ることではありませんか?」


 アンネリーゼはちょこんと首を傾げた。ロロン王国ではアンネリーゼが一般的な感覚だと思われる。


「我が子がどれだけ王家に近い方の護衛になれるかで、ブラントの一族は競っております。もちろん、表立っては言いませんが。ですから、ブラントの両親は今、おそらく一族の中で勝ち誇っていると思います」

「いろいろな価値観がありますわね」


 アンネリーゼはそっとこぼす。

 バカにしたりしていない。嫌悪感もないアンネリーゼの声音にエリヤは救われた気がした。


「古臭い、忌避すべきものだと思われませんか?」

「私の前世の記憶の話の方が突拍子もないことです」


 アンネリーゼは苦笑いを浮かべた。それでエリヤは、自分の言葉を恥じ入る。


 寝間着を来た自分の胸に、アンネリーゼはそっと手をそえた。


「ですが、これは私の中の真実です。人それぞれに生きて得たものを、好き嫌いは確かにありますが、簡単に否定する気はありません。エリヤもそうだったではありませんか」


 アンネリーゼに微笑みかけられ、エリヤは言葉に詰まった。


 出会ってすぐに、アンネリーゼはエリヤに前世の記憶のことを話していた。夢を叶えるためにエリヤから体術を習いたいとアンネリーゼはお願いをした。


 エリヤの記憶では、アンネリーゼの前世の記憶の話を、否定しなかったが、肯定もしなかった。

 それはまだ、エリヤが大人ではなかったことと、家族との確執に傷ついていたからだ。


 エリヤは自分がアンネリーゼの発言を否定しなかったことを、彼女が覚えていたことに喜びを感じた。同時に少し申し訳ない気持ちにもなる。


 決して積極的に肯定したわけではなかった。その後のアンネリーゼを見ていて、彼女はウソを言っていないと感じたのだが。


「もっとも、当事者になるととてもたいへんでしょうけれど」

「子が誰に遣えるかで親の序列が決まると言うのはおかしな話だと思います。親と子は別の人間です。親が王家に遣えることのできる人材になれば良いものを」


 珍しく強い口調のエリヤの言葉に、アンネリーゼは静かに耳を傾けていた。


(エリヤは優秀な護衛ですから、ブラントさんの母君に強く当たられたのかもしれませんね)


 こっそりそんな推察をする。


 エリヤの精神衛生上この話題が続くのは良くないので、アンネリーゼは強引に話題を変えた。


「先生に西方へご同行いただけるか、うかがってみましょう」

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