密約 2
「すまないね、ご足労いただいて」
「いえ、とんでもございません」
クラリスは深々と頭を下げる。ジャンヌは優雅な振る舞いで付いてくるよう促した。
シャルルとジャンヌのポロの練習中に乱入してからひと月。
クラリスは急にジャンヌから彼女の屋敷へ招待された。馬車まで用意されていた。
ジャンヌは公爵令嬢。伯爵令嬢のクラリスとはこれまでひとつの接点もなかった。年齢もジャンヌが五つ上だ。
戸惑いながらも、せっかくの招待を断るのも申し訳なく、クラリスはやって来た。
クラリスはそういう話に疎かったので知らなかったが、ジャンヌは令嬢の間でとても人気のある令嬢だ。下手な令息よりずっとスマートでかっこいい。ファンクラブのようなものまであるらしい。
クラリスはジャンヌのようにすごい魔法が使えるわけでもないし、運動神経が飛び抜けているわけでもない。
何か一緒にできることがある気もしない。
「君ともっと話してみたかったんだ。私も、彼も」
そう言ってジャンヌが開いたドアの向こうには豪華なティーセットが準備され、金の髪の美しい青年が待っていた。
「シャルル様……⁉」
驚きのあまり、クラリスはジャンヌを見上げる。
ジャンヌは小さく微笑み、クラリスの腰に手をそえた。
「さあ、どうぞ」
「良く来たね、子うさぎ」
シャルルも立ち上がってクラリスを迎える。
「僕が一人で君を呼び出すわけにもいかなくてね」
クラリスの額に落ちてきたシャルルの形の良い唇。クラリスは自身に何が起こったのかを理解するのに数秒を必要とし、理解するとアワアワと手足を動かして真っ赤になった。
それを見てシャルルは楽しそうに笑う。
「シャルル……」
ジャンヌは大きなため息をついた。
「僕を見て逃げ出した女の子が初めてだったから、ついイタズラしてみたくなってね」
「クラリスは子うさぎだから臆病だし純情なのだよ」
赤面して硬直しているクラリスをジャンヌが引き寄せる。
「悪いオオカミから守らなくては」
クラリスの間近で甘く微笑むジャンヌにもドキドキしてしまう。
ふたりの話は楽しくて、クラリスは夢のような時間を過ごした。
あっという間に帰る時間になってしまう。
ジャンヌはクラリスを見送った後、部屋でひとり待つシャルルのもとへ戻った。
シャルルは窓からクラリスの乗った馬車を見送っていた。
「まったく……」
ジャンヌはシャルルの隣で立つ。
「そんなに気に入ったのなら、あんな軽薄な態度より紳士的に振る舞ったらどうだい?」
「そうか。その方が良かったのか……」
頬を紅潮させるシャルルを見て、ジャンヌは一瞬目を見張った。
シャルルにこんな顔をさせる少女が現れるとは。
幼い頃からずっと一緒にいたジャンヌは、複雑な胸中になる。
「純情な子うさぎには、そちらの方が好まれると思うよ」




