密約 1
十四歳のクラリスが茂みから飛び出してたどり着いたのはポロの練習場だった。
そんなところに出るとは思っていなかったクラリスは、呆然と立ち尽くす。
初めて出席したお茶会。一人でおろおろしていたところへ声をかけてくれたグループがあった。彼女たちに言われるまま付いて歩き、気がつくと置き去りにされていた。
手ひどい洗礼を受けてしまった。じわりと涙がにじむ。
どこから来たのかもわからない。人任せにしていた罰だと、クラリスは反省した。
「危ない……っ!」
その声と馬のいななきに驚いたクラリスは尻もちをついた。
眼前に迫る、前脚を振り上げた馬の巨体。
恐怖にギュッと目を閉じ、そのまま動けなくなったことが返って功を奏した。
座り込んで動けなくなったクラリスに、馬を駆っていた男性が駆け寄ってきた。
「申し訳ない。お怪我はありませんか?」
サラサラの金の髪と、青い瞳の優雅で美しい男性。
迷子になって汗と泥と涙にまみれているクラリスとは何もかもが違い過ぎて、悲しくなった。
「申し訳ございません……」
「悪いのは僕だ。泣かないでくれたまえ」
男性はそっとクラリスを支え、立ち上がらせてくれた。いい匂いがしたせいか、胸がどきりとした。
「大丈夫かい⁉」
スラリと背の高い女性がこちらへ駆けてきた。とても美人で、ふたり並ぶとたいそう絵になった。
それでまた、クラリスは気後れしてしまう。
「幸い、大きな怪我はないようだ」
「そうか。それは良かった」
男性が告げると、女性はうなずいてクラリスを見た。
「ところで君はなぜこんなところへ?」
「迷子になってしまい……」
クラリスはしょんぼりと肩を落とす。
「ああ、そう言えば今日、お茶会を開くと言っていたな」
「ジャンヌは出席しなくて良いのかい?」
「君との約束があったからな。親父殿も、君との予定には文句が言えまい」
くすくす笑うジャンヌがとても格好良くクラリスには見えた。
「案内しよう。ここもあそこも、我が家の庭だ」
ジャンヌは颯爽と歩き出したが、クラリスの足は重かった。こんな姿で会場に戻ったらまたどんな意地悪を言われるかと思うと怖くなった。
「ここにいてほしい」
金の髪の美男子がクラリスを引き止める。
「こんなに愛らしい子うさぎに出会えたのは初めてだ。ハイエナの群れに戻すのは忍びない。それに子うさぎが見てくれていた方が、練習もはかどる」
青年の美しく優しい微笑みに、クラリスはどきりとした。
「シャルル……」
ジャンヌはあきれたようにため息をつく。またシャルルの悪い病気が始まったと思った。
「シャルル……?」
クラリスは妖艶に微笑むシャルルを見上げる。その名前に聞き覚えがあった。
「シャルル……」
もう一度言い直して、ようやく青年の正体に思い当たる。
「シャルル殿下……!」
国王の息子、つまり王子のシャルルはクラリスにニコっと微笑みかけた。




