小瓶の中身
優しく素敵なご婦人をだましているようで、アンネリーゼの良心はまたチクチク痛んだ。
しかしそれを面には出さない。
(名探偵は、いつでも平常心よ)
「ありがとうございます」
キリリとした礼を告げるアンネリーゼを、クラリスはにこにこ見つめていた。
アンネリーゼは早速小瓶を調べるために、エリヤと共に王立研究院へ向かった。
アンネリーゼとエリヤを少し寂しそうに見送るランドルフ王子を、クラリスは見守る。
孫の中で一番シャルル似ているランドルフ王子は、クリストは愛しくて仕方がない。
「ランドルフはとても人を見る目があるわね」
敬愛する祖母に褒められたランドルフ王子はとても誇らしい気持ちになった。ランドルフ王子自身だけでなく、アンネリーゼまで祖母が認めてくれていると嬉しくなる。
ランドルフ王子が婚約者候補にアンネリーゼを選んだと言う情報を聞き、クラリスはこっそりアンネリーゼを調べてさせていた。
勉学も魔法も優秀だが、周囲に変人と呼ばれていると聞いたときはクラリスはアンネリーゼをランドルフ王子の婚約者候補にして大丈夫かと不安に思った。
しかしランドルフ王子の様子から、アンネリーゼは悪い娘ではないと感じたし、直接会って、不器用なところのある少女なのだとわかった。
問題は、アンネリーゼからランドルフ王子へ恋愛感情が稀薄と言うか、ほとんどなさそうなところだ。
孫がアンネリーゼを憎からずと思っているのは、語り口調や視線が物語っていた。ただ、ランドルフ王子もまだ完全に自覚はしていないとクラリスは思っている。
甘酸っぱい初恋だと、クラリスの胸がソワソワしていた。
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この青い小瓶があの男の魔法だとわかったので、何が入っているのか心配でクラリスから借りてきた。
「エリヤ、彼の年齢は先生と同じくらいだと私は思っていたのだけど」
「私もそのように感じていました」
王立研究院の研究室は、特別クラスの生徒は自由に使うことを許されている。
まだ一度しか会ったことのない人物だが、カミーユの彼への言葉を思い出す。カミーユを彼の望みの叶うように励ましていた、と。
そこから導いたアンネリーゼの結論は、とてもではないがクラリスには話せなかった。
(多分、中身は毒ですわ)
嘆き悲しむクラリスへの励ましのつもりだろうか。冗談なら質が悪く、本気ならとんでもなく性格が悪い。
(クラリス様と顔を合わせていないのは、何か条件があるのかしら)
アンネリーゼの研究室には、毒の成分を解析する魔法で生み出した道具が置いてあった。
この世界の毒の多くは動物由来や植物由来の自然のもの。魔法による調合でも生み出される。
どの程度の毒なのか安全に調べるために研究室へやって来た。
白衣を着込み、目を守るためのゴーグルを装着する。
魔法で作られた毒は、昔から書物で伝わるものでなかったら作用の特定が難しい。
調べた結果、神経系の猛毒であることがわかった。
ほんの少量口にしただけで呼吸困難に陥り、死に至る強い毒だ。
(クラリス様が口にしていなくて本当に良かった)
アンネリーゼは厳重に魔法で鍵のかけられる棚に小瓶を片付けた。




