表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/78

吊られた男 3

 華やかで優美な声と共に現れた男性を見たローワンは硬直した。ゾーイも真っ赤になって固まっている。


 アンネリーゼも実物を見るのは初めてだが、彼のことを知っていた。ロロン王国の王族の中でも特に美形だと国民人気の高い第三王子、ランドルフだ。


 ここの学生たちと同年代だが、今、どうしてランドルフがここにいるのかアンネリーゼは疑問に思う。


「どうだろう?」


 老若男女関係なく見るものを虜にさせてしまう魔性の微笑み。ローワンとゾーイは首がもげそうなほど激しく何度もうなずいた。


 だがこの魅了(チャーム)が効かない人間がひとりだけこの場にいた。


 かばわれたはずのアンネリーゼがさっきまでの楽しげな表情から一転、すっかり無表情になっている。


(王子様がしゃしゃり出て来たら、私への注目がなくなるじゃない!)


 心の中で地団駄を踏んでいたが、王子の手前、敵意をむき出しにもできない。感情を無にすることで何とか心の平穏を保った。


「アンネリーゼさん、私にも一枚いただけるかな?」


 皆、うっとりと王子の笑顔を鑑賞していた。しかしアンネリーゼの目にはうさんくさいものに映っていた。


(初対面で私の名前が言えるということは、さっきゾーイさんに自己紹介していたのに聞き耳を立てていたんだわ。しかもちゃんと名前を覚えたなんて、何が目的?)


 疑念を抱いたが、公衆の面前で王子を問いただすとアンネリーゼが悪者になる可能性が高い。


 ここはおとなしく従うのが吉だと判断した。


「どうぞ」


 ニコリと笑って見せて、ランドルフに試薬紙を差し出す。

 ランドルフから直近に魔法を使った匂いはしない。


「最後に魔法を使われたのはいつですか?」

「そうだね、いつだったかな……」


 あごに手を当てて考える動作すら絵になる。アンネリーゼにはあざとく映っていたが。


「とりあえず、ここ最近使った記憶はないね。それぐらい前、ということだ。だから私が触れると青くなるはずだね」


 笑顔でからりと答えるランドルフに黄色い歓声が起きた。注目を奪われるアンネリーゼはおもしろくない。早く試薬紙を受け取るように仕草で催促した。


 視線より低い位置にある物体を認識するために、わずかに伏せたアイスブルーの双眸。長いまつ毛が白い頬に影を落とす。


(まつ毛まで完璧なんて、おもしろくないわ)


 爪の先まで微塵の隙も感じられない、ランドルフの美しい指が試薬紙に触れる。


 瞬時に、美しい青い花が咲くように変化した。


「青……」

「青いわ」

「あの紙、すごいな」


 野次馬たちが口々に感想を述べる。


(くっ……!)


 悔しいが、アンネリーゼも第三王子の影響力を認めざるをえない。周りが味方になる空気を作り出したのは間違いなく彼だ。


 ローワンはおろおろと周囲を見回した。今やこの場にローワンの味方はいないに等しい。


「じゃ、じゃあ俺を殺そうとしたのは誰だと言うんだ⁉」


 アンネリーゼは薄く鋭い微笑みを浮かべた。それを見たローワンは背筋がゾクリとする。


 すべてを見透かすような漆黒の瞳が、深淵に見えた。


「殺そうとしたわけではないと思いますけど、あなたに魔法の使い手を責める権利はないと思います」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ