ランドルフとエリヤ
お茶会の主催者の婚約者、つまり第二王子がやって来たのかと思ったアンネリーゼは声のする方を見て驚いた。
ランドルフ王子が一直線にこちらへ向かってくる。レイモンドとブラントを置いて行く勢いだ。
なんとか王子に取り入ろうとする令嬢たちに目もくれず、ランドルフ王子はアンネリーゼの前で止まった。
エリヤはランドルフ王子のこの行動に思惑を感じ、わずかに眉根をひそめた。
「アンネリーゼさん、お楽しみのところ申し訳ないのだが、私と来てもらえないだろうか?」
「え」
まだ主催者の公爵令嬢、マリヴォンヌに直接挨拶もできていないので、アンネリーゼは辺りを見回す。
「まだマリヴォンヌ様に何のご挨拶もできておりませんので……」
「わかった。私が紹介する」
ランドルフ王子がアンネリーゼの手をつかんだ。
目を白黒させながら立ち上がったアンネリーゼを連れて、ランドルフ王子はずんずん進む。
エリヤは凛とした動きでふたりの後を追った。王子の護衛もすぐ後に続く。
「どうなさったのですか? お茶会にいらっしゃるなんて」
「お祖母様にアンネリーゼさんのことを話したら、ぜひ一度会いたいと仰言っていたんだ。それで今ここにいると聞いて、お祖母様も今ならお時間があるご様子だったから」
「お祖母様……」
ランドルフ王子のお祖母様ということは、国母だ。
アンネリーゼはさすがに取り乱した。
「大丈夫なのですか? ランドルフ様と私は……」
「問題ない。お祖母様と会ったからと言って、直ちに正式な婚約者になるわけではない」
ふたりにはアンネリーゼを名探偵にすると言う密約があるからそう言えるが、周囲はそうではない。
エリヤはこれはランドルフ王子の作戦ではないかと疑いを持った。
アンネリーゼとの関係を外堀から埋める。
伯爵令嬢と言うのは王子の妻としては少々物足りない身分だ。しかし長兄は他国の姫、次兄は公爵令嬢と婚約している。よって、ランドルフ王子の婚約者はアンネリーゼでもおそらく問題ないのだろう。
エリヤは修行が足りないと深呼吸をする。
アンネリーゼの幸せが第一。エリヤの気持ちなど二の次にすべき。エリヤは自身に言い聞かせる。
そもそも王子相手に嫉妬などして、勝ち目のあるはずがない。
そう思って、またエリヤは頭を抱えたい気持ちになる。
ランドルフ王子の出現で、これまで目を背けていたことを突きつけられる。
「そうなのですね」
アンネリーゼはエリヤの悩みに気づかない。王子からの返答に安心した表情になった。おそらく、これが安堵の顔だとわかるのはエリヤとランドルフ王子ぐらいだ。
ランドルフ王子はアンネリーゼが少し心を許してくれるようになったと思えて嬉しくなる。
そして相変わらず、アンネリーゼは自分に向けられる恋慕の情には鋭い推理が鳴りを潜める。
「ご歓談中、失礼いたします」
マリヴォンヌとふたりの令嬢の会話にランドルフ王子は割り込んだ。
振り向いたマリヴォンヌはさすが王子の婚約者と思わせる美貌と華の持ち主だった。
「ランドルフ様! お見えになるなら仰言ってくだされば……」
「申し訳ない。お祖母様が彼女に会いたいと仰言っていて、急遽お邪魔したので」
「初めまして。アンネリーゼ・シュツルムと申します」
マリヴォンヌは笑顔でアンネリーゼの小さな声の挨拶を聞いてくれた。が、取り巻きたちは冷たい視線でアンネリーゼを見定めている。
(嫌われるだろうと思っていましたが、ここまでとは)
それほど美しい第三王子のファンは多いと言うことだ。
「初めまして、アンネリーゼさん。マリヴォンヌです。仲良くしてくださいね」
ランドルフ王子の兄の婚約者は、優しい笑顔でアンネリーゼを受け入れた。




