アンネリーゼとエリヤとお茶会
ランドルフ王子の婚約者候補役を継続したのでアンネリーゼの生活はこれまでと少し変化した。
王立研究院で思いつくままに事件捜査に役立ちそうなアイテムを魔法で生み出し、いろいろな人を協力と称して実験台にすることは変わらない。
しかし、お茶会の誘いが多くなった。
第三王子の、変人と名高い婚約者候補にマウントを取ろうと考える性格の悪さが透けて見えていた。
あわよくば破談にしたいと手ぐすねを引いているのが丸見えの招待状の山に、アンネリーゼは辟易していた。
勉学に忙しいとほぼ断っていた。だが、このの誘だけは断るわけにいかなかった。
ランドルフ王子の二番目の兄の婚約者主催のお茶会なのだ。
さすがに父もエリヤもアンネリーゼの欠席を認めてくれなかった。
「ゼクレス伯爵家のこと、聞きまして?」
「ええ!」
「あれほど王族に結婚すると吹聴していましたのに、裏で悪事を働いていたなんて」
「逮捕された途端にご両親は絶縁したそうですわ。余程爵位とご自分たちが大切なのね」
「あそこのご両親だって、ちょっと、ねぇ」
「今更無関係なんて、通用しないと思いますけれど」
輪になった数人は口元を扇で隠してくすくす笑っているが、悪意はだだ漏れだ。
アンネリーゼが壁の花に徹していても、口さがないお嬢様たちのうわさ話が耳に入ってくる。
ふとエリヤが気になって、隣に立つ彼を見上げた。今日は女装だが、参加者の誰よりも美しい。
「どうなさいましたか?」
エリヤの美しい横顔を見つめていたことに気づかれ、アンネリーゼは動揺する。
「あまり愉快な場所ではなかったわね」
おどけるように小さく肩をすくめる。
誰とも積極的に仲良くしようとしないアンネリーゼに、チラチラと無遠慮な視線はいくつも飛んできていた。どれもあまり好意的とは感じなかった。
(精神的に窮屈だし、居心地は悪いし、早く帰りたいわ)
「欲と言うのは、取り憑かれるとどんなに優しい人間でも心を曇らせてしまうのでしょう」
エリヤの言葉には妙に実感がこもっていた。
アンネリーゼはエリヤの事情を本人に直接問いただしたことはない。それでも、十年も一緒にいれば肌で感じることもある。
エリヤは家族と上手くいっていない。父がエリヤに実家に戻らないのかを聞いていた場面に遭遇した時、きっぱり帰らないと言っていた。
その時のエリヤの様子から、なんとなく触れてはいけないことだとアンネリーゼは思っていた。
(ランドルフ様の護衛のブラントさんとの関係は気になるけれど)
あれほど似ていて、血縁出ないということはないだろう。
そっくりさんと言えば、とアンネリーゼはクリストハルトと同じ顔をした謎の人物のことを思い出した。
いつの間にか姿を消していたが、あの部屋の何もない空間に彼の魔法紋が残っていた。それは時計のように見えた。
そこから彼が出入りしたのだろうと、アンネリーゼとクリストハルトは推測したが、空間を渡る魔法はクリストハルトも使えない。
それこそ物語でしか見たことのない魔法だ。
カミーユの口ぶりだと、昔から彼をに助言をしていたようだった。
(話を聞けないかしら)
アンネリーゼはお茶会と関係のないことばかり考えていた。しかし参加者たちの悲鳴に似た歓声に中断を余儀なくされた。




