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ランドルフ王子の来襲 9

「アンネリーゼさん、これまで本当にありがとう。それで、これからのことですが」


 ランドルフ王子が少し言いづらそうに切り出す。

 アンネリーゼはそれで察した。


(そうでしたわ。もともと、ギデオンさんの死の真相が知りたかったのですもの。それが一応終わったのですから、私から身を引かなくては)


 ランドルフ王子に恥をかかせるわけにはいかない。アンネリーゼはできるだけさみしげに微笑んで見せる。ぎこちない表情に、ランドルフ王子はアンネリーゼの気遣いを汲み取った。


「そうですね。王宮の図書館に入れなかったことは残念でしたわ」


 やはりアンネリーゼはそれなのか、とランドルフ王子はうなだれる。

 このままアンネリーゼとのつながりが断たれてしまうことがランドルフ王子は嫌だと感じていた。


 ランドルフ王子から切り出さなければ、ここで終わりだ。


 王子は一度固く唇を結ぶ。大きく息を吸って心を整えた。


「その……もしアンネリーゼさんさえ良ければ、もう少し私の婚約者候補でいてくれないだろうか」


 意外な王子の申し出に、アンネリーゼは目を丸くする。

 ランドルフ王子の白い頬は紅潮していたのに、探偵令嬢はまるで気がつかない。アンネリーゼは自身の色恋沙汰となると、なぜか疎くなる。


「よろしいのですか?」

「アンネリーゼさんの魔法が認められるように、協力したい」

「ありがとうございます」


 これまでほとんど表情の動かなかったアンネリーゼが、今度は薄いが柔らかく微笑む。


 アンネリーゼの表情がわずかだがこれまでよりころころ変わることに、ランドルフ王子は胸が高鳴る。


 これまで経験したことのない感情の動きに、ランドルフ王子は首を傾げた。


「おやおや」


 クリストハルトはおもしろそうにその光景を見つめていた。


 ふたりを引き合わせた張本人であるが、この展開は予想していなかった。


「強力なライバル出現だねぇ」


 クリストハルトのからかうような視線から逃れようとエリヤは顔をそむける。


「私はお嬢様の盾でさえいられれば、それで十分です」


 今回は盾でさえいられなかった。それがエリヤは屈辱だった。


 ランドルフ王子はアンネリーゼの強力な後ろ盾となれる。そうなれと発破をかけたのはエリヤ自身だ。


 アンネリーゼの生み出す魔法が認められ、アンネリーゼの探偵になる願いが叶えばそれで良い。いつかアンネリーゼがエリヤ以外の人を好きになって結ばれても、アンネリーゼが幸せならそれで良いと、エリヤは本気で思っていた。


 それなのに、こんなにも胸がざわつく。平常心を保てなくなる。


「何のライバルかなんて言ってないのに」


 クリストハルトの人の悪い笑顔にエリヤは挑発されそうになる。それをぐっとこらえて、いつもの冷静沈着な護衛の顔に戻った。


「では近々、王宮にうかがってもよろしいのですか?」

「もちろんです」

「ありがとうございます」


 王宮へ遊びに行く約束ランドルフ王子とを交わしたアンネリーゼは、軽やかな足取りでエリヤの傍らへ移動する。


 ランドルフ王子とエリヤ。互いの鋭い視線が、アンネリーゼの頭の上で激しくぶつかった。

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