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ランドルフ王子の来襲 8

 憲兵団員たちにカミーユとフロランスは拘束され、拘置所へ連れて行かれた。


 ふたりとも魂の抜けたような顔をしていた。脳が、何が自分たちの身に起こったのか理解することを拒否したのだろう。


「ご苦労だったな、お嬢さん」


 ポンとシルバーに肩を叩かれたアンネリーゼは、天にも昇る気持ちだった。


 だがそんなことはお首にも出さない。静かにシルバーに一礼する。


「とんでもないです。ご協力いただき、ありがとうございます」


 シルバーは軽く片手を挙げると他の憲兵たちと共に去っていった。


(そのお背中、素敵すぎます……っ!)


 アンネリーゼの心のカメラの連写機能が止まらない。


 アルタウス男爵の愛人を探し出してくれたのはシルバーだ。

 短い時間で、歓楽街の昔ながらの権力者たちに話をつけてくれたらしい。


 礼儀や仁義のない新参者にうんざりしていた彼らだが、シルバーの頼みならと情報を伝えてくれた。


 シルバーを見送ったアンネリーゼは、レイモンドとブラントに挟まれたランドルフ王子に歩み寄った。


「あまりお役に立たず、申し訳ございません」


 探偵令嬢はランドルフ王子に深々と頭を下げる。


 憲兵団副団長の父、ヴィリバルトにアンネリーゼが可視化に成功した魔法紋の証拠採用をお願いしたが、やはり聞き入れてもらえなかった。


 もちろん、悪事を暴くための材料としてプラスにはできる。


 しかし父いわく、もっと功績を積み上げろ、と。


 アンネリーゼの魔法紋可視化の魔法を誰もが見過ごすことのできないようになるまで、地道に案件をこなすしかない。


 なので今回は犯人の自白が必要だった。


 けれど、裁判になって自白を翻されたら、どこまで罪に問えるかわからない。アルタウス男爵の件さえ、殺人事件として扱ってもらえなくなる可能性もある。


「とんでもない。あの男の本音がわかったので、ギデオンの殺された理由もわかりました。私がギデオンの人生を狂わせてしまった」

「それは違うと、私は思います。悪いのはあの男です。ランドルフ様がそのようにお考えになるのは、ギデオンさんも悲しむのではありませんか?」


 ランドルフ王子は驚いたように目を瞠る。


「そうですよ、ランドルフ様。ギデオンはランドルフ様の護衛になれたことを誇りに思っていると、俺に言ってました」

「……僕も、言われた」


 護衛たちの話を聞いたランドルフ王子の双眸に、じわりと涙が浮かぶ。


「見ないでください」


 くるりとアンネリーゼに背を向けたランドルフ王子は袖で涙を拭っていた。


 その様子を、エリヤは少し離れた場所で見守っていた。


「落ち込むなんて、珍しい」


 クリストハルトがにやにやしながらエリヤに近づく。

 図星を指されたエリヤは、珍しく表情を崩した。


「両手も詠唱も魔法陣もなしに魔法が使える人間を相手にしたのだから、魔力のないエリヤくんは悪くないよ。それに大した魔法じゃなかったから、アンネリーゼさん一人で対処できるたんだし」

「それは……そうかもしれませんが」


 不満げなエリヤに、クリストハルトはいたずらっぽく肩をすくめて見せる。


「理想が高いね」

「お嬢様にはこれから何が起こるかわかりません。私にもできることはしたいのです」

「ふーん」


 クリストハルトは意味ありげににやにやしながらエリヤをジロジロ見つめる。


 その視線をさせるように顔をそむけたエリヤはふと、ひとり消えていることに気づいた。


「あの者はどこへ消えたのですか?」

「いつの間にかいなくなってた。あちらの話が終わったらアンネリーゼさんの魔法をこの部屋に試してみよう」

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