ランドルフ王子の来襲 5
「ソイツがみんな殺したのよ……」
目の下に隈がくっきりと浮かび上がり、髪はぼさぼさの女性がカミーユをにらみつける。
変わり果てた女性の姿に、カミーユはあ然とした。彼の求めていた幼なじみの女の子はこんなみすぼらしい女ではない。きれいに化粧をして着飾っていた彼女だ。
「誰だ、お前は」
「あんたのせいで全部めちゃくちゃよ!」
興奮状態の女性がカミーユに飛びかかろうとするので、シルバーと新人憲兵が取り押さえる。
シルバーが危険だと判断し、三人はこの場から去った。
カミーユはこれみよがしな大きなため息をついた。
「さっきから何なんだ……」
「魔法による殺人は重罪です」
「アンネリーゼさん、本当に頭がオカシイのね」
フロランスが小馬鹿にしたように鼻で嗤う。
「先生と私がしていたのは、ロロン王国をきれいにするための掃除ですのよ。ゴミが消えたのだからランドルフ様には感謝していただきたいくらいですもの。ねぇ、先生?」
得意気に語るフロランスをカミーユは忌々しく思う。
確かにフロランスにはそのように教えこんでいた。これはロロン王国のためを思っての行い。ゴミ掃除だと。ランドルフ王子と結婚するためにしなければならないことだと。
「この娘が勝手にやったことだ! 僕は知らない!」
この期に及んで見苦しく、カミーユはフロランスを指差して糾弾した。
「先生?」
さすがのフロランスも裏切られようとしていることに気づいたようで、困惑した表情になる。
「それは無理があります。フロランスさんの魔力では正確に心臓を貫けるとは思えません。そもそも、あの研究はあなたがずっと行っていたものです。裏は取れています」
アンネリーゼに詰め寄られ、その冷たい表情にカミーユは気圧される。
「僕の教え方が良いんだ!」
この小娘なら勝てるだろうとカミーユは氷の矢の魔法を放った。しかしそれはアンネリーゼに届くことなく弾かれ消滅する。
「大したことございませんね」
カミーユはクリストハルトを見たが、彼が何かした気配はなかった。
もう一度アンネリーゼに氷の矢を射るが、やはり彼女に届くことなく消えてしまう。
天才魔法士、クリストハルト仕込の魔法障壁はそう簡単に破れるものはいない。
「魔法陣に置いたわら人形の左胸に、殺したい相手の髪の毛を入れて釘を打つ」
アンネリーゼに言い当てられ、カミーユは呼吸が止まるかと思った。
暗殺する魔法を完成させるために必要だった髪の毛と言う最後の因子をカミーユが見つけるまで、何年もの歳月を必要とした。
それを目の前の少女は言ってのけたことに恐怖を覚えた。
本当の天才は彼女のような人間なのかと思ってしまうが、懸命にその考えを打ち消す。
自分こそが最強で、天才なのだ。カミーユはそう固く信じていた。
しかしアンネリーゼの手元を見てギクリとした。
アンネリーゼがいつの間にか暗殺魔法に必要な一式を手に持っていたからだ。紙に書かれた魔法陣まで正確なのがカミーユはひと目でわかった。
「どっ……」
カミーユはどうしてわかったのかと叫びたかったが、あわてて口をつぐむ。
自白さえしなければ捕まらない。そう考えていた。
「先生! そんな邪魔者に負けないでくださいまし!」
フロランスは余計なことばかり口にする。まずはあちらを黙らせようと、カミーユは魔法で炎の矢をフロランスへ向けて放つ。
クリストハルトが指を鳴らして瞬時に消火した。
「こんな場所でそれは危ないよ」
天才魔法使いが皮肉っぽい笑みを浮かべた。




