ランドルフ王子の来襲 3
エリヤに腕を取り押さえられ、カミーユは動けなくなっていた。
一昨日の夜にふたりは会っているのに、エリヤは今日は男装のためカミーユはまるで気がついてない。
カミーユは元軍人のはずだが、エリヤに腕力でてんで敵わない。振りほどこうともぞもぞ動くが、びくともしなかった。
「何なんだお前たちは⁉」
「ランドルフ王子に依頼されている探偵です」
(決まった……)
涼しい表情をしながら、お腹の中ではドヤ顔のアンネリーゼ。
突然フロランスが素っ頓狂な声を発した。
「探偵⁉」
大きく吹き出して、お腹を抱えて笑い出す。
「探偵……探偵って、物語の中にしかいませんのよ? 変人だとは思っていましたけれど、おつむもかわいそうな方だったのね!」
フロランスの高笑いは勝利を確信しているようだった。ランドルフ王子に向き直るときには、可憐な少女のような仕草を見せる。
「ランドルフ様、この子がどんなに魔法が優れているのか知りませんけれど、婚約者候補からはすぐにお外しになれてはいかがかしら? ランドルフ様や王族の皆さまの汚点になってしまいますわ」
優しく諭すフロランスだったが、ランドルフ王子に氷のような冷たい視線を向けられ顔色を変えた。
「あなたに指図される謂れはない」
「もっ、申し訳ございません!」
低く、突き放すようなランドルフ王子の声。深く頭を下げたフロランスは恐怖に震えた。
アンネリーゼは初めて見るランドルフ王子の様子に驚いた。
ランドルフ王子から威圧感を感じたことはこれまでなかった。だが今の彼は王族のオーラを放っている。そこに怒りの感情が乗っているので、さらに押しつぶされそうな空気をフロランスは感じているだろうと冷静に分析する。
「私はランドルフ様のためを思って……」
言い訳をしようとするフロランスの根性に、アンネリーゼはある意味感心した。
そして予想通り、火に油を注ぐ結果しか生まなかった。
「出過ぎた言動は謹んでください」
さらに一段低くなったランドルフ王子の声に、レイモンドがぎょっとしたほどだ。後に、あれほどお怒りのランドルフ王子を見たのは初めてだったとレイモンドは語っている。
「レッスン中に乱入してきて、失礼じゃないか! そうでしょう⁉」
カミーユに同意を求められたクリストハルトは少し困惑した苦笑いを浮かべて首を傾げた。
「でもこうやって取り押さえるのが一番安全だからねぇ」
「取り押さえるって……あなたは僕の味方でしょう⁉」
「味方?」
クリストハルトは反対側に首を傾げた。
「僕をずっと励ましてくれていたのに……!」
エリヤを振りほどいてクリストハルトに飛びかかろうと、カミーユは身をよじる。
「何を言っているのかさっぱりわからないのだけど」
身の危険を感じたクリストハルトは一歩後退した。
「どうしてそんな意地悪を言うのですか?」
「意地悪も何も、初めて会ったよ」
「どうして……」
「誰と間違えているのかわからないけれど、人違いだよ」




