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ランドルフ王子の来襲 2

 ランドルフ王子一行は夕闇に紛れて、お忍びでポーシャール伯爵邸を訪れた。

 すでにフロランスの魔法の家庭教師が到着していることは確認している。


 何も知らずにランドルフ王子とその護衛を出迎えたポーシャール家の執事やフロランスの母は驚き、あわてふためいたがすぐに静かになった。


「申し訳ありませんね」


 クリストハルトは口では謝っているが、全く悪びれる様子はない。


 眠りの魔法で屋敷の中にいる者を、次々に夢の世界へ送り込む。天才魔法使いの魔力には底が見えない。


(敵に回したくはありませんわ)


 アンネリーゼも彼女にしか使えない魔法があるし、一般的な魔法の能力も高い。だがクリストハルトは格が違う。


 現在この屋敷の中にいる人間を眠らせているのにはふたつ理由があった。ひとつは突然乱入してくるなどの邪魔をされないため。もうひとつは不測の事態になったとき、人質に取られないためだ。


 できるだけ想定外のことは排除しておきたかった。


 天才魔法使いのクリストハルトがいると言っても、相手もロロン王国軍の魔法部隊にいた手練だ。


 魔法の練習をしているので、家の人の案内がなくてもアンネリーゼの嗅覚がふたりの居場所へ導いてくれる。


 そしてそのニオイは、あの日覚えたものと同じだった。


「こちらです」


 二階の奥へ一行は進む。


 ランドルフ王子がドアをノックすると、よそ行きの声でのフロランスの返事が響いてきた。


「ランドルフ様、ようこそいらっしゃいま……せ」


 フロランスの想像より大人数がいたこと、しかもその中にランドルフ王子の婚約者候補のアンネリーゼがいたこと。フロランスの花の(かんばせ)は忙しく色や形相を変えた。


「ランドルフ様……?」


 何も聞かされていなかったカミーユはきょとんとする。


 フロランスのいる方へ振り向いて、そこに本当にランドルフ王子がいたことに仰天した。


 初めて目の当たりにした、ランドルフ王子の美しさにカミーユは心を完全に奪われた。


 ギデオンはこの方の側にいたのかと思うと悔しくて奥歯を噛みしめる。


 しかしギデオンはもういない。カミーユは彼に勝ったのだ。もしや、その優秀さに気づいてスカウトに来てくれたのではないか。


 カミーユの妄想に力を与えるように、()()()の姿もあった。


「はじめまして、ランドルフ様。私はフロランスさんの魔法の家庭教師をしているカミーユ・デュプレと申します」


 どんな賛辞をかけられるのか、カミーユは期待に胸をふくらませる。


「はじめまして。ランドルフです」


 握手を求めて差し出されたランドルフ王子の手。カミーユは緊張と喜びで心臓をバクバクさせながら、ゆっくり腕を伸ばした。


 その手を不意に別の手に捕まれ、カミーユは手のひらに謎の液体をかけられる。


「何を……っ」


 浮かび上がった黒い紋章は、アルタウス男爵の胸にあったものと全く同じだった。


 カミーユとフロランスは状況が飲み込めず、ランドルフ王子一行の顔をきょろきょろ見る。


「間違いありませんね」


 特製のシートに魔法紋を写し取ったアンネリーゼは無表情のままカミーユの顔を見据えた。

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