ランドルフ王子の来襲 1
「ランドルフ様が⁉」
「はい。今宵、ぜひあなたの魔法のがんばりを拝見したいと仰言っていました」
笑顔でレイモンドに告げられた内容に、フロランスは飛び上がりそうなほど喜んだ。
レイモンドは自身の張り付いたような笑顔を不安に思っていたが、フロランスからはそうは見えなかったようだ。
「先生もきっとお喜びになりますわ!」
無邪気な少女の様子に、レイモンドの良心がチクチク痛む。
ランドルフ王子からのお願いで、フロランスが家庭教師と魔法の勉強をしている様子を見せてもらいたいと話していた。フロランスはとても乗り気だ。
ランドルフ王子がお出ましするのは本当だが、理由はもちろんウソである。
本当の目的は別にあるが、それを気づかれたくない。
「今宵のことは誰にも話さないでいただけますか? もちろん、先生にも。情報がもれてしまうとランドルフ様がお邪魔できませんから」
爽やかな笑顔で、レイモンドは唇に人差し指をそえる仕草をする。
「もちろんですわ」
フロランスはこれで彼女も婚約者候補になれると思い込んだ。一足飛びに婚約者になれるかもしれないと期待に胸をふくらませる。
空も飛べるのではないかと思うほど弾んだご機嫌な足取りで去っていくフロランス。しばらくその背中をレイモンドは黙って見つめていた。
完全に姿が見えなくなってから、レイモンドはへなへなと廊下に膝をついた。人が好いので、他人を騙すことに慣れていない。
「お疲れさまです」
「……大丈夫だったかな?」
隠れて様子をうかがっていたアンネリーゼが顔を出したので、レイモンドは尋ねる。フロランスのあまりの浮かれように、アンネリーゼは拍子抜けしていた。
「おそらく問題ありません」
演技かもしれない。それにしては不自然さがなかった。能天気なだけだろうか。
レイモンドはホッとしたように大きく息を吐いた。
(いけませんね。こちらが罠にかけようとしているせいで、疑心暗鬼になっていますわ)
フロランスと親しいわけではない。しかし彼女はアンネリーゼに面と向かって悪口を言ってくるあたり、根回しや策略に長けているタイプとは思えない。
「ギデオンさんの遺体を調べることができればよかったのですけれど」
「そうだね……」
手の甲にあったと言う跡は、遺体のない今ではもう誰が付けたものか判断できない。
ギデオンが死んだ時点で、すぐにアンネリーゼとランドルフ王子が会っていたらもしかしたら、そのあとに四人も殺される事態は起きなかったのかもしれない。
しかし皮肉なことに四人の悪党が死んだから助かった人も、おそらく存在する。
(だからと言って、彼らの行いが許されるべきではありません)
今日、きっちり引導を渡す。
そのために魔法紋を浮かび上がらせる薬もできる限り用意した。
ランドルフ王子やクリストハルトの後押しもある。
絵画の詐欺を見破ったあの頃とは違う。アンネリーゼの周囲にはエリヤだけではない、彼女を信じてくれる人が増えていた。




