ランドルフ王子の憂鬱 20
「その人が共犯者ならば、私を使えば良い」
ランドルフ王子は静かに、しかしはっきりとアンネリーゼに告げた。
「どうして私がおとりになるのは却下なさったのに、ご自分がおとりになるのですか? ランドルフ様の身に何かあったら」
「私がおとりの場合は、アンネリーゼさんと違って私の命は危険にさらされないからだよ。彼女の目的は私だろう?」
「彼女はそうでも、パートナーはそう思っているかわかりません」
「だけど、今仕掛ければ、少なくとも相手は私たちの遺伝子情報とやらを持っていないのだから」
ランドルフ王子の言葉に、アンネリーゼは反論できない。
確かに早ければ早いだけ、相手は悪事を隠すことができないだろう。
アンネリーゼの魔法のことも知らないのだから、乗り込んだところでバレるはずがないとタカを括っているかもしれない。
「研究中の魔法式を見た限り、こちらの急襲におそらく対応できないよ。僕も手伝うし、レイモンドくんとブラントくん、エリヤくんも一緒に行動すれば勝算は十分だ」
クリストハルトは人の悪い笑みを唇の端にひらめかせる。
「先生もこう仰言っている。皆も話せば力を貸してくれるはずだ」
「……そこまで私のことを信じてくださるのですか?」
「もちろんだ」
深くうなずいたランドルフ王子に、七歳だったアンネリーゼが救われ、現在のアンネリーゼは驚いた。彼女自身が思っていたより悲しい気持ちだったらしい。
「一度も会ったことのないギデオンのために、アンネリーゼさんは命を賭けようとしてくれた」
「それは依頼者のランドルフ様が、私を信じていろいろな便宜を図ってくださったのですから結果を出さなくてはなりません」
ランドルフ王子は不意に向かいに座るアンネリーゼの手を取り、長いまつ毛に縁取られた宝石のようなアイスブルーの双眸でまっすぐに見つめた。
王子の距離感のなさと力強さにアンネリーゼは困惑する。
「私がアンネリーゼさんを信じて頼ったように、アンネリーゼさんも私を信じて頼ってくれないか? ギデオンの仇を取らせてほしい」
ランドルフ王子の瞳は真剣だった。
「かしこまりました」
アンネリーゼも覚悟を決めた。
「ギデオンさんのことは自白してもらうしかありません。罪に問えるかもわかりません。それはご理解ください」
「わかっている」
「エリヤと詰めの調査を行いますので、あと少しだけ時間をください」
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妖艶な美女に変装したエリヤが、アンネリーゼの元へ帰ってきた。
「妙な自信を持っているタイプの方なので、自爆してくださると思います」
アンネリーゼがどきりとするほどの色香を振りまいてエリヤは微笑む。
今夜は共犯者のところへ行っていたようで、エリヤは容易に後をつけられたらしい。飲み屋の近くで声をかけるとあっさり応じて、いかに自分が優れているかを延々とエリヤに語った。
おそらくエリヤを男性とは思っていない様子で、終始見下したような態度だったと言う。
「ありがとう。大丈夫?」
「もちろんです。お嬢様のお役に立てることが何よりの喜びです。ですが、何か癒やしをいただけるのでしたら」
エリヤのしなやかな手がスッとアンネリーゼの指先を捕らえる。そのまま羽毛が触れるような軽やかで優しいキスがアンネリーゼの手の甲に落ちてきた。
アンネリーゼはわけがわからず目を白黒させる。
エリヤは満足そうに微笑みを浮かべた。
「次は明後日だそうですので、王子にお伝えいたしましょう」




